2013年7月9日火曜日

国際会計基準はどこへ行くのか(時事通信社)

著者:田中 弘 出版社:時事通信社 発行年:2010年 本体価格:2000円
 国際会計基準(IAS)あるいは国際財務報告基準(IFRS)については、2009年ごろは5~6年でアメリカや日本も含む世界統一基準になるはずだった。しかしアメリカはその後もFASB(米国財務報告基準)を維持し、日本もまた企業会計基準委員会から公表される会計基準を原則とし、国際会計基準はあくまで一部の上場企業について容認されているのみだ。著者はアメリカがなぜFASBを放棄しないのか、その理由を会計政策の面から分析し、日本についても独自の会計基準を維持しつつ、国際的な調和を図る方法がベストな方策だったことを明らかにする。そのうえで国際会計基準に定められている離脱規定(カーブ・アウト)を活用する利点や製造業にとって有意義な取得原価主義会計の活用を提言する。
 著者の力作であるが、読みながら、アメリカと欧州、そして日本の文化の違いに思いが至る。国際会計基準はもともとは英国に端を発してその後EU域内の統一基準として活用されることが当初の目標だった。したがって、地域の文化や歴史などを重視した原則主義をとる。一方、アメリカはその欧州からカルヴァン主義の影響を受けた清教徒の文化の流れをくむ。「天は自ら助く者を助く」という格言があてはまる自力救済の文化だ。そうした文化では詳細かつ厳密な会計基準が妥当し、FASBは厚さ数十センチというとんでもない分量の会計基準となる。それでは日本はどうかというと、アメリカよりもむしろ欧州のような農耕文化をベースとした歴史、地域、コミュニティを重視する社会だ。そうした文化ではFASBのような詳細な会計基準よりも原則主義の国際会計基準でなおかつ曖昧な規定が残っているほうがかえってうまくいく面がある。その意味では、国際会計基準に大きな影響を与えているアメリカに対して批判的なフランスなどとむしろ協調がとりやすい面がある。
 2010年発行の書籍だが、現在でもなお、アメリカはFASBを維持して、日本は国際会計基準の強制適用の時期を送らせ、むしろその一歩手前で金融庁による暫定的な会計基準の作成が新聞で報道されたばかり。国際会計基準と日本基準の「中間」をどこに求めるかだが、少なくとも数年前の急速に国際会計基準を導入するという方向から、スピードダウンしたことは、幸いだったのかもしれない。この国際会計基準については理論的に正しいかどうかという視点以外に、政治的に有利か不利かといった問題もはらんでいる。農耕文化の国家らしく、ここは国内の会計基準と国際会計基準の彼岸を分析し、日本から逆に国際会計基準に提言すべき論点などをまとめるにはいい機会かもしれない。

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