2011年6月28日火曜日

IFRSに異議あり(日本経済新聞出版)

著者:岩井克人 佐藤孝弘 出版社:日本経済新聞社 発行年:2011年 本体価格:850円
つい数日前の日本経済新聞で2015年に全面適用の予定だったIFRSの導入が見送られる公算と報道された。もともと上場企業の連結財務諸表のみという限定つきだったが、すでに一部FASBなどを導入している企業の連結財務諸表もIFRSに移行する予定だったので、これはややインパクトが大きいかもしれない。書籍面でいうと書店ではIFRSの入門書が並び、会計学の本でも国内の会計基準のほかになんらかの形でIFRSに言及されている本が多いという実情がある。まったく無視はできないうえ、IFRSという言葉が独り歩きして一種ブームのようにもなっていた。が、IFRSの原理はどこにあるかといえば複式簿記の歴史よりもむしろ新古典派経済学にあるといえるだろう。資産や負債の割引現在価値が公正価値(時価)として貸借対照表に認識され、その変動分が損益計算書に計上されるという構図となる。デリバティブの評価がまさにそうだが、決算日の時価の変動分がまさしくデリバティブ損益として損益計算書に計上されるわけだが、それは貸借対照表項目の変動部分。資産負債アプローチといわれるのは、資産や負債の認識が先で、その後に損益項目がくるからでもある。だが実際には収益費用アプローチと資産負債アプローチが明確に区分できるわけでもなく、この両者は密接に結びついている。日本の会計基準も資産負債アプローチ的な部分を持ちつつも、実現主義や取得原価については特に事業用資産の測定に明確に収益費用アプローチが残存している。この本では、IFRSの品質の問題、見積もりの問題、自己創設暖簾の問題などを取り上げ、強制適用ではなく選択適用を、連結先行ではなく連結財務諸表と個別財務諸表の分離をおこない、後は市場原理でIFRSの導入をするべきととなえている。タイトルどおりに解釈するとかなり衝撃的だが内容はきわめて穏健だ。いきなり強制適用ではなく選択適用にして、IFRSに対するポジションを定めつつ段階的に導入の道をさぐろうとするスタンスで、まだ明確な指針や国際的に賛同をえているわけでもない指針がある以上、むしろ当然の議論が展開されていると思う。取得原価主義にも欠陥はあるが、公正価値主義にも欠陥はある。どちらがいいのかはまだ決定的な結論がでていない。であればEUなどがそうであるがごとく、個別企業に負担をかけることなく、それぞれの企業環境に応じた会計基準を採用していくべきという議論である。
本書はIFRSに対する特定のスタンスの書籍というよりも、ここ10年の国際会計基準をめぐるさまざまなスタンスを概観するのに有効な書籍といえる。あまり通常の会計の本では触れられないカナダの会計基準の動向などにも触れられており、過熱したIFRSブームを冷静に分析する手がかりになるだろう。

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