2013年8月5日月曜日

ファイアボールブルース(文藝春秋)

著者:桐野夏生 出版社:文藝春秋 発行年:1998年 本体価格:476円
 舞台は弱小女子プロレス会社。巡業と練習のはざまで突如発生する身元不明の殺人事件。看板プロレスラー火渡、通称ファイアボールがなぜかこの殺人事件に興味を示し、真相を探り出そうとする‥。種も仕掛けもわりと日常的でかつ平凡な組み合わせだが、プロレスに独自の哲学をもつ火渡がその哲学に即して生きようとして殺人事件の種明かしに至る自然なプロセスが見事。桐野夏生の作品は突如物語がダークサイドに転がって読後感が微妙なものになることもあるが、この作品に関してはそれもなし。でもこれ、「2」もあるから油断もできないが。
 主人公の「火渡」のプロレスに対する哲学は、作者の小説に対する「哲学」にオーバーラップする。「違うね。プロレスってのはいくらでも自分で変えていけるんだ。どうしてかっていうと、自分が作るものだからだよ。だけど団体が小さくて序列ができると決まりきったショウを作るしかなくなる。あたしはそれがいやなんだ。‥プロレスは全人格的なものだってことさ」は、プロレスをそのまま小説に置き換えれば通じるものだろう。ある種の「筋」に準じて女子プロレスの世界でいき、その筋に準じてゆ行方不明のプロレスラーを追いかける。なんだかむちゃくちゃこの主人公、かっこいい。

0 件のコメント: