2013年2月24日日曜日

スティグリッツの経済学(東洋経済新報社)

著者:藪下史郎 出版社:東洋経済新報社 発行年:2013年 本体価格:1800円
 「ビューティフル・マインド」という映画の中で、とびきりのブロンド美人とその友達4人がバーに入ってくる場面がある。アダム・スミスの自由放任もしくは市場原理にまかせておくとバーにいる男子大学生4人は全員ブロンド美人にアタックし、その結果ほかの4人は帰ってしまうということになる。そこでゲーム理論を考案したナッシュはふと気がつく。ここで戦略的に行動し、男子学生4人はそれぞれほかの4人の女性にダンスを申し込めば女子大生グループは帰らずに全員の利害が一致するのではないか、と。
 映画の話はゲーム理論だが、この本でもアダム・スミスの市場原理をひとつのモデルとして扱いつつ、現実には情報の非対称性があるために完全市場の利点は現実にはいかされず、特に開発途上国においては公正なシステムを構築することが何よりも重要だ、というスティグリッツの理論が紹介されていく。
 20年前のミクロ経済学ではまだ情報の非対称性について取り扱っているテキストは少数派もしくは応用的な論点としての位置づけだった。現在では情報の非対称性やゲーム理論は入門書の段階でほとんとの経済学のテキストに著述されている。その業績の多くにスティグリッツの手になるものがあり、この本ではスティグリッツの生い立ちなども含めて「入門の入門」として、現在の経済学に興味が持てるように配慮されている。ただし内容的にはある程度昔でいうミクロ経済学で生産者余剰や消費者余剰、ISーLM分析などを学習してきた中級者向けとなるだろうか。けっして易しい論点ばかりが扱われているわけではない。なんとなく読者層としては、昔近代経済学を学習してしばらく遠ざかっていたが、もう一度経済学を復習してみようかな、という中年読者層がターゲットにおかれているように思う。

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