2013年2月18日月曜日

イノベーション・オブ・ライフ(翔泳社)

著者:クレイトン.M.クリステンセン ジェームズ・アルワース カレン・ディロン 出版社:翔泳社 発行年:2012年 本体価格:1800円
 破壊的イノベーションの理論で知られるクリステンセン教授がハーバード・ビジネス・スクールの卒業生にあてた講演を1冊の本にまとめたもの。経営学を教えてきた教授が「人生」についてその理論を応用するという形をとっている。クリステンセン教授の著書はこれまでも読んできたが、敬虔なキリスト教徒であり、さらに昔韓国にも布教にいかれていたことなどは知らなかった。ハーバード卒業後に離婚や犯罪に手をそめる卒業生をみ、どうしてそうなったのかその因果律を明らかにしていく。
 じっくり語りかけてくる内容を読みながら、けっして結論を述べずに学生に「考えさせる」(単に考えさせるだけでなく確固たる理論と知識をベースにして考えさせる)展開は、確かに丸暗記の授業よりも応用力が身につく。そして「偶然」という要因が人生に与える影響についても。
 偶然と必然というのが昔の自分には理解できない面があったのだが、最初は「偶然」、そしてそのあとは確固たる目的と目的にいたるプロセスの積み重ねで必然になっていくということが…なんだか最近になって「体感」できてきたような気がする。この本を手にとったのも偶然だが、読み終えてその内容を今の自分に適用していくのは「必然」(この本では意図的戦略)ということになる。
 メインテーマからはずれるエピソードだが、アメリカのブロックバスター社がネットフリックス社に敗れて破産するまでのプロセスの分析が興味深かった。固定資産を抱える企業にとっては新規事業は限界費用が高く限界収入はさほど高くない。そこで新規事業よりも既存事業の活用(固定資産の活用)という経営的な意思決定をおこなう。だが新規事業に乗り出した企業にとっては、固定資産も既存事業もないのだから新しい市場にどんどん乗り込んでいってシェアを拡大していく…。これ、有店舗小売商の、たとえばダイエーなどがネット販売に乗り出さなかった経緯を連想させる。巨大資本も人員も十分にあるダイエーがネット通販に乗り出すことは1990年代には可能だったはずだ。だが多数の有店舗と社員を抱えるがゆえに、その重要性を相対的に低下させるネット事業には積極的には乗り出せなかった‥。そしてその間に楽天がシェアを拡大していく、といった構図だ。出版社などもこのアナロジーで同じことがいえるのかもしれない。








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