2010年3月23日火曜日

日本の難点(幻冬舎)

著者:宮台真治 出版社:幻冬舎 発行年:2009年 本体価格:800円
 扱っている題材は日本から世界まで「トピックになりそうなもの」。講義形式の文体で、時に社会学の専門用語も混じるものの、平易な日本語で説明がしてある。「社会の包摂原理」っていう言葉がキーワードになりそうだが、セーフティ・ネットのもっと昭和的な感じ…という個人レベルで解読していければ読者なりの理解には達することができる。解釈も価値基準も無理に著者に合わせる必要性などはなく、しかも自分自身が依拠する「今の社会」をどう認識していくか、という切実な欲求があれば、おそらく何らかのヒントを得ることが可能になるだろう。「社会学」という学問の説明ではなく、終始、「今」「これから」「どう生きるのか」という問いかけが著述されており、結局、書籍の内容がわかったかどうかは、個人個人の「今後」で示していくしかない。日本の保守主義の正統性の2本の流れとか農産物の輸入問題などとにかくてんこもりで分析のツールもミクロ経済学やマクロ経済学の技術を援用している。法律制度の説明も法律入門的な扱いではなく、「社会にとってどうなのか」という観点から著述されているので、法解釈だけでは解決できない「難点」を発見することもできるだろう。この厚さと価格でコンパクトな著述、ただし1回読んで「ふ~ん」というわけにはいかないあたりが「社会学」の難しいところか。

ヒトラーの秘密図書館(文藝春秋)

著者:ティモシー・ライバック 出版社:文藝春秋 発行年:2010年 本体価格:1900円 評価:☆☆☆☆☆
 書店で「これは面白そうだ」と手にとったのが始まり。最初から最後まで意外な独裁者の情報源が解き明かされていく。「ディレッタントの書斎」と大雑把に位置づけることになるが、より踏み込んで書き込みなどを検討していく著者はユダヤ人問題の「源泉」、バチカンの司祭が試みようとしたナチスの分断作戦、ポーランド侵攻やスターリングラード侵攻当時のヒトラーの考え方の源、フリードリッヒ大王が救済された「ブランデンブルグの奇跡」などナチス勃興から消滅に至るプロセスを検証していく。この歴史上稀に見る独裁者の情報源は意外なところに潜んでいたわけだが、それはニーチェでもハイデガーでもなかった…というのがポイントかもしれない。イタリアとの同盟についてはその理由が示されているが日本との同盟関係についてはライバックは明らかにしていない。英米との同盟関係が締結できない理由は同時に明らかにされているのだが、第二次世界大戦当時に「北欧人種説」に依拠してアメリカ合衆国を褒め称えていたヒトラーが非北欧人種で構成されている日本との同盟関係について、どう折り合いをつけていたのかは興味深いところだが…。「自己欺瞞」と表現されているヒトラー特有の「自分自身をもだましてしまう口約束と嘘」については、冷静な記述で立証されている。あ、「自己欺瞞」っていうワザ、日常生活でも見ることが多いが、ひとつの国家元首が「自己欺瞞」を行うようになるともはやその国家は破滅に導かれていくというひとつの実例か。「すでに発生した歴史」にさらに緻密に検証を加えていくと同時に、一部に巻き起こる「天才説」を棄却する一種の証拠にもなりうる本。エンターテイメントとしても面白い。

「結果を出す人」の仕事のすすめ方(アスコム)

著者:美崎栄一郎 出版社:アスコム 発行年:2010年 本体価格:1400円
 ビジネス書が一種のブームの領域をこえて書店の定番商品になりつつある現在、現役ビジネスパーソンによるビジネス書って案外数は少ない。もちろん経済評論家とか大学の先生によるビジネス書も役に立つのだが、時間とか他の業務とかの兼ね合いというのはおそらく普通の会社員のほうが制約が多いはずだ。「相手の視点で」などいろいろ注意事項が約200冊のビジネス書から抜きがきされているのだが、自分の時間と環境にあわせて「解読」していくプロセスが興味深い。「プロジェクトの成功は人で決まる」というテーゼから具体的な課題にブレイクダウンしていく様子はおそらく他の環境でも応用がきくことだろう。

2010年3月22日月曜日

筋を通せば道は開ける(PHP研究所)

著者:斉藤孝 出版社:PHP研究所 発行年:2010年 本体価格:700円
 ある程度人生経験を積むと「ああ、自分ってどこにでもいる普通の人間で、特別な存在なんかじゃないなー」と実感する。普通の存在で特別扱いされるわけではない…というのを実感させてくれるのが公教育の大きな役割で、それ以外の課題研究とか授業とかは実は付属物に過ぎない。実際、9年間の義務教育と3年間の高校生活でもっとも有用だったのはクラブ活動だったりする。大学教育は公教育というよりかはやはり個人の任意で行くものだが、それでも授業よりサークル活動の「軋轢」のほうが今は役立っている。
 で、「勤勉と節約」という資本主義の倫理。これって日本社会でも実に重要な概念で、「ああ、この人はお金使いが荒いなあ」と思っているとたいていの人が予想するとおりの破滅的展開に結合していくケース、実に多い。「信用がお金をうむ」というフランクリンの発想はある意味「いやみ」な部分もあるのだけれど、実学的にみていくとフランクリンの生き方、確かに勉強になる。質素な生活を習慣化しておけば、余計な贅沢はしなくなる、てな考え方、窮屈なようでいて長期的にはけっこう楽な考え方にもなるわけで。そうした実学的な根拠がかなりの部分フランクリンに由来してくる…というあたりを斉藤孝がオリジナルにこの新書に集約してくれている。「癖をワザ化する」という斉藤孝の言葉は頭にしみついているのだけれど、フランクリンも個人の考えを「ワザ」にして21世紀の日本に残してくれた。「困難を整理して区分けしていく」というような考え方、アナログ社会からデジタル社会に移行してもけっこう通じる考え方ではないかと思う。

2010年3月19日金曜日

マーケティングマインドのみがき方(東洋経済新報社)

著者:岸田雅裕 出版社:東洋経済新報社 発行年:2010年 本体価格:1500円
 元パルコ出身のコンサルタントによるマーケティング理論。マーケットに依存しすぎても、独自性を貫きすぎてもバランスが悪い。BMWなど具体的な事例を出しつつ、両者のバランスを考察。さらにプライシングがいかに難しいことか、あるいは値下げするのであれば「値段のわりには優れた品質を持っている商品」と消費者に実感させる方法の重要さなどが著述。CRMなど現在の企業が多かれ少なかれ実践している理論を著者なりの視点で分析。顧客重視という概念がマーケティングにいかに貫かれるべきかという商品提供者の倫理にも踏み込んでいる本だ。「エンドゲームシナリオ」とよばれる不毛な競争原理から抜け出す方法も考察されており、現在の百貨店やGMSの関係者も読んで学ぶべき箇所は多いだろう。エルメス、ヴィトンとコーチの比較も非常に面白い。

2010年3月16日火曜日

タリバン(光文社)


著者:田中宇 出版社:光文社 発行年:2001年 本体価格:680円
 「タリバン」のこの新書を購入したのはもうかなり前だが、あまりに続くアフガニスタン戦争とその後の悲惨なアフガニスタン地域の状況になかなか読み進めないでいた。2001年に発行された本だが基本的な状況は2001年からほとんど変化がないといっていいだろう。もともとパキスタン(対インドとの抗争のため地理的に背後に控えるアフガニスタンを親パキスタン政権にしておく必要があった)とアメリカの支援を一時期受けていたタリバン。その後、反米・イスラム原理主義的方向へと舵を切り、それと同時にアメリカとは対決路線へ。この本を読むと中東の歴史に存在するオスマン=トルコの時代が、イスラム原理主義のバックボーンにあることが指摘されており、それもまた興味深い。著者がアムル語の遺跡を発見したくだりなどはさすがジャーナリストというほど客観的な文章で、しかも歴史の重さを感じさせてくれる名文。

完全にヤバイ!韓国経済(彩図社)

著者:三橋貴明 渡邊哲也 出版社:彩図社 発行年:2009年 本体価格:1429円 評価:☆☆☆☆☆
韓国経済について、日本の経済構造と適宜対比しつつわかりやすく、さらに独自の分析。ウォン安という現象は知っていたが、統計データなどから内需の落ち込みと外資の引き上げという事態が継続して今も続いていることから、今後さらにウォンが安くなる可能性も指摘されている。ただし日本よりも資本財(部品など)の輸入割合が高く、完成品輸出の割合が高いという構図で今後外需(輸出)の減少と輸入の減少の縮小均衡の可能性も指摘されている。2009年度の大学卒業生55万人のうち4万人の就職見込みという比率も一部で報道されているが、本書の内容と比較するとおそるべき比率(非正規雇用は含んでいない数値と推定される)。日本以上に非正規雇用者の比率が高い韓国では失業の余波がすぐに若い世代や企業のリストラとして表に現れてくる。その意味では、労働状況の厳しさは日本以上といえるのかもしれない。ただし失業率としてカウントされているのは2010年1月時点では4・8パーセントと日本とほぼ同様の数値になっている(韓国統計庁)。ただし統計庁の比率は表向きで、実質失業率はその4倍とみなす説もある(http://www.labornetjp.org/worldnews/korea/knews/00_2009/1234631667151Staff)。このサイトでは青年失業者が120万人に達するとされており、ただならぬ数字となっている。ウォンの対円比率も2010年3月現在で約12・5ウォン=1円の水準。ウォンの市場が小さいため対ドル比率ほど為替相場が安定しないとはいっても円高ウォン安の動きがここ数年長期的に続いている(さらに続くと著者は指摘)。韓国の超高齢化のスピードも今後の懸念材料になりそうな気配。国民の5割がソウルにほぼ終結しているというのも不動産バブルの一因だったのかもしれないが、外資が投入してそこから撤退することで住宅バブルと株式相場の下落が続いたのも痛い。かつての日本と同じように資産デフレ効果で民間消費支出も相当に落ち込むことが予想される。同じ加工貿易国家とはいってもかなり構図が違うことがこの本を読むとすっきりわかる。近くて遠いお隣の国の経済状況を面白くマスターするにはこの本、かなりオススメ。さらに国際マクロの基本用語もわかりやすく解説してくれているので、国際マクロ経済学などでつまづいた人にはこの本を逆に入門書として読む方法も推奨したい。