著者名;妹尾克敏 発行年(西暦);2004 出版社;一橋出版
N県など地方自治体には新しい気運がうまれようとしてはいるが、それでもおそらく改革の効果がでてくるのは20年後に近いだろう。地方自治法の176条では地方公共団体の「長」と議会はそれぞれ対等の関係にたつこととしている。長つまり知事は議会に対して予算などの議決に対して一般的拒否権をもってはいるが、これは個別具体的な行使がもとめられ、しかも議会で3分の2以上の再議決がなされるとその議決は確定する。違法な議決や選挙については特別的拒否権が認められてはいるが、議会の力が強い事実には変わりはない。一応地方自治は首長主義ではあるが、議会主義的な調整も必要とされるためだ。もっとも議会が開催されなくても専決処分なども法定されてはいる(地方自治法179条)。
地方自治体には①教育委員会②選挙管理委員会③人事委員会④監査委員などが設置される。これらの広範な人事権というものは知事の裁量による部分が実は多い。議会で拒否されたとしても候補は次々とあげることはできる。かくして地方自治というものは一つ間違えると地方独裁に陥る可能性すらある。保守主義というものの使い分けは大事だが必ずしも、「現状維持」が保守主義を意味しないのはいうまでもない。法解釈の運用を現状維持に適用すれば、「伝統」と「現状維持」をはきちがえた統治は充分に成立可能だし、実はもう一部の地方自治体はそうなっているのかもしれない。
ただし地方自治法が定める住民監査請求制度はかなり強力だ。その地方公共団体に住所を置く人間であれば、請求権者になれるため年齢や性別などの制限もなければ選挙権や納税義務も必要ない。しかも請求対象は「すべての地方公務員」という強大さである。公金の支出や契約の締結など対象となる範囲も広い。事前的な予防措置もとることが可能である。ただし請求対象となる行為を証明する書面が必要という制限はある。また監査の結果、「理由がない」という場合には請求人に対して「書面で」通知するとともに公表が地方自治体に義務付けられている。これは地方財政が膨大な赤字を抱えている現在、余計な支出や税金の公正な使途を義務付けるという趣旨だと思うが、心理的プレッシャーを大きく与えることになるだろう。たとえばダムの建設についても、一定の要件では「談合」が発覚すれば関与していたものが連鎖的に罪をとわれる事態も考えられる。
さらにこの住民監査請求の次に「住民訴訟」という制度も設定されている。住民監査請求で地方自治体が自浄能力をなくした場合には、裁判所という第三者の判断をあおぐ制度だ。これは法律上そのメリットを享受しない人間にも認められる訴訟形態であるので、一種の「民衆訴訟」(行政事件訴訟法第5条)であり、違法行為はここで裁かれる。ただし住民訴訟の濫訴を防止するために、住民監査請求を経た上でないと、住民訴訟はできない。これはやはり訴えのメリットと社会経済の安定、さらには迅速な地方自治行政とのバランスを考慮したものだろう。監査請求をしなかった住民は訴訟には参加できるが、出訴はできないという定めになる。
住民訴訟の種類は以下の4種類。①差し止め請求②取り消しまたは無効確認の請求③違法確認の請求④損害賠償請求または不法利得返還請求。④については平成14年に改正されて、それまでよりも訴訟対象を拡大している。スーツ代などを「公金」から支出した場合にはその地方公務員全員に対して不当利得返還請求の訴訟ができるということになるのだが、はたしてO市はその訴訟に耐えられるかどうか。
さていずれにせよ「広域連合」など新制度は民主主義の精神を鼓舞しようとはしてくれている。ただしもとより普段の生活において「法律」が有意義に機能する場面は少ない。法律のもとに精神があるのではなく、精神のもとに法律があるというこの事実は、実は本を読むまで法律の存在すらしらないということも意味する。
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