2011年11月3日木曜日

「上から目線」の構造(日本経済新聞出版)

著者:榎本博明 出版社:日本経済新聞出版 発行年:2011年 本体価格:850円
この本かなり売れているらしい。なんとなく理由が分かるのは「なぜゆえにこの人はすべてわかっているような口調なのか?」「なぜゆえにこの人は自信たっぷりなのか?」と不可思議に思う機会が増えると同時に、無意識に自分自身が発した言葉が「上から見てるー」などと反応されることがあったから。一つには未成熟な人格と自信のなさが傲岸さにつながるという昔からの構図。これは別に今に始まったことではなく、ともすれば酒場の酔っ払いと同じで、無責任な場では大きな声になるがフォーマルな場所では小さくなるという構図。これは新しくない視点。ただ、もう一つはかつて以上に「空気」を読まなければ生きていけない雰囲気と市場経済の発達による交換価値の重視の傾向。市場経済重視では価格が「高い」人材が結果的には「価値も高い」とみなされる(傾向がある)。とすれば、イケメンであろうが高学歴であろうが、「市場価値が低い」人材は交換価値も低いとみなされてしまう。そういう構図では周囲との協調性が重視されるが、そうした「空気を読む」ことにたけていない人材というのは、ともすれば「上から目線」にもみえてしまう…。逆にまたそうした市場価値重視のなかでは自分が認識している以上に他人から低く扱われることに「怒り」を感じるものかもしれない。とすれば何気ない一言に「逆切れ」してしまうのもまた自信のなさや市場価値の予想以上の「低さ」に対する怒りの表れともみることはできる。いずれにせよ、「昭和」の時代よりも確実に市場経済は日本社会に定着した(少なくとも雰囲気的にはそうだ)。したがって、人間はまず自分自身の市場価値を高めようとすると同時に、必要以上に自分を低くみられることに過敏なのかもしれない。

2011年11月2日水曜日

パリの蜂起(新潮社)

著者:佐藤賢一 出版社:新潮社 発行年:2011年 本体価格:476円
農産物の不作と物価高に悩むフランス。財政赤字の再建のため貴族階級への課税をねらう財務大臣ネッケルは罷免され、全国三部会もルイ16世とその取り巻きに押し切られる。策士ミラボーはパレ・ロワイヤルに乗り込み、うだつのあがらない弁護士デムーランをたきつけて、民衆の怒りに火をそそがせる…。 名作「ベルサイユのばら」から何度繰り返しても読み飽きないフランス革命の歴史。時にはルイ16世とマリー・アントワネットの視点で、時には民衆の側の視点で。そのたびごとにきれいごとではすまないフランス革命の歴史の「裏」に流れる人間の「情念」の歴史を思う。人権宣言や民主主義といった「キレイゴト」ですまないのは、フランス革命以後も流れる粛清の歴史がある。またいかにマリー・アントワネットの「浪費」が過ぎたとしても、自分の子供とも離縁されてギロチンにかけられるほどの罪があったとも思えない。抑圧からの解放が、逆に抑圧を生むというのは、その後、スターリンが、そしてポル・ポトが歩んでいった道でもある。ロマン的にも見える「物語」だが、それでも冷たいリアリズムも垣間見えるフランス革命絵巻、第2巻。

2011年10月30日日曜日

革命のライオン(新潮社)

著者:佐藤賢一 出版社:新潮社 発行年:2011年 本体価格:476円
フランス革命を扱った小説で単行本では全10巻の予定が全12巻完結になったというシリーズもの。シリーズものには非常に弱く、だいたい大部のシリーズにかぎって、はずれは少ない(はずれだったら途中で打ち切りになっていたはずだし)。で、この本も1789年のベルサイユ宮殿に財務長官ネッケルがかけつける場面から始まるが非常に面白いのである。この1巻ではまだマリー・アントワネットは三部会に少し登壇するだけで登場人物の重要な役割はしめていない。むしろこれまで脇役的存在だったミラボー、ネッケル、デムーランといった人々が小説のなかで動き出す。ロベスピエールの扱いやルイ16世の扱いも既存のフランス革命の小説や映画とは微妙に異なる。「素材」として狩りや錠前いじりが好きなフランス国王であった…としても、作家の解釈によってはさまざまな人物像が描写されるものだ。で、絶対的な歴史的真実なるものが存在しない以上、こうした解釈の面白さは、必ずや後世の代の歴史的解釈も自由かつ柔軟にするものではないかと思う。本の装丁もお洒落で、さらに解説は池上彰さんという豪華さ。

2011年10月28日金曜日

九月が永遠に続けば(新潮社)

著者:沼田まほかる 出版社:新潮社 発行年:2008年 本体価格:629円
発行されたのが平成20年2月1日(文庫版)で、購入したのが平成23年10月30日第15刷。僧侶や会社経営のすえ、小説家となり賞も受賞したということもあって注目を浴びているようだ。発行から3年がすぎて書店では平積みになっている。売り込みの文句は「エロコワ」。でもなあ。個人的にはエロイともコワイとも思わない。まず主人公は41歳のバツイチ主婦で子供は高校生という設定。こういう主人公がどういう恋愛関係をくりひろげようとそれが「エロイ」とは思わない。少なくとも個人的にはそう。で、「こわいか」というと、これも個人差がでてくるが、ぜんぜん怖くなかった…。さまざまな人間関係が繰り広げられる点で「怖い」と思う人もいるのかもしれないが、「自分だったら」と冷静に考えると、こういうただれた人間関係にはウンザリして逃げ出すだろうな、としか思わない。想像力が欠けているのかもしれないが、小説よりも映画とか演劇に向いているストーリーなのかもしれない。「息子」を喪失した…という喪失感覚がなんか感じ取れないんだなあ…。途中思ったのは第一人称で語られるこの「世界」がもし成立するのであれば、一人の人間の頭の中の妄想ではないか、ということ。こういうのって、怖いっていうよりもえげつないと表現するしかないんじゃあ。

2011年10月24日月曜日

イギリス王室物語(講談社)

著者:小林章夫 出版社:講談社 発行年:1996年 本体価格:650円
昨年のアカデミー賞を受賞した「英国王のスピーチ」を見て、「そういえば、エドワード8世に関する本、どこかにあったようなあ」と書棚をさがして、つい全部よみふけってしまった本。映画ではエドワード8世(ガイ・ピアース)は脇役なのだが、堅苦しいヴィクトリア王朝からエドワード王朝にほんのハザマ切り替わる瞬間の英国王として有名だ。この本ではイタリアやドイツにシンパシーを感じていた点やファッションなどに解説が加えられているが、父親のジョージ5世やドイツと戦争状態におちいったさいのジョージ5世は確かに災難だったろう。このほかにヘンリー8世(「チューダー」という海外ドラマが現在レンタル中)、エリザベス1世、ジェームス1世、チャールズ2世(別の映画でジョン・マルコヴィッチがこのチャールズ2世を演じたことがあった)、ジョージ1世、ジョージ4世、ヴィクトリア女王(これも映画化)が取り上げられている。いずれも何度も映画化されたほどの王侯であるほか、伝記も多数執筆されているが、なにせ逸話にはことかかない英国王室。この新書はまだ書店にも置いてあるぐらいロングセラーとなっているようなので、なにか外国映画やドラマをみているさいに、ちょこっと参照するには非常に便利。自分自身も通読したのは5年ぶりか6年ぶりぐらいだが、なにかのおりには読めるように本棚の手にとりやすいところにおいてある。

2011年10月23日日曜日

平台がおまちかね(東京創元社)

著者:大崎梢 出版社:東京創元社 発行年:2011年 本体価格:700円
発行された2011年9月にはあちこちの書店で平積みだったが、11月になると平積みの書店もかなり減ってきた。文庫本も新書も新刊の山だけに、発刊2ヶ月もたつと次々の競合商品が出版されてくる。書店の平台は面積が限定されているため、どうしても新刊優先になってしまうのはしょうがないが、それだけに書店営業はすでに発刊された既刊本も含めてブックフェアやPOP広告などにまい進。そんな書店営業の業務をからませて日常のちょっとした「ほんわかミステリ」を、新人書店営業が解決していく。版元は東京創元社。ミステリの文庫本を地道に発刊しているという印象の出版社だが、著者は実際に書店営業についてまわって取材をかさねた模様。業種としては書店営業だが、地方書店がかたひじはらずに付き合いができる「吉野」という登場人物のパーソナリティは他の業種業態でも勉強になる点多いかも。実際、大手・都会の「営業が地方の小規模メーカーなどに営業するさい、どうしたって相手側にはいろいろ引け目もでてくる。そんな引け目を柔軟にほぐしてしまうのもやり手の営業のスキルなわけで。なかなか知られることが少ない版元と書店の情報流通や物流を担当する職種で、出版社によっては広告宣伝もかねることが多い部署。読書好きの方はもちろん、販売促進にかかわる方にもおすすめ。

街場の現代思想(文藝春秋)

著者:内田樹 出版社:文藝春秋 発行年:2008年 本体価格:571円
評価:☆☆☆☆☆☆
ある意味では非常にわかりやすい内田先生の本。文化資本による階層社会(これ、実際にはもう到来している)、「勝ち負け論」、社内改革論、転職論など。特に117ページが秀逸で。「決断をせまられた時点で」「選択肢はしぼられている」という、まあ、それはそうなんだけど、当事者にとってはいわれたくないよね的な結論がばっさり書かれている。困難な状況に追い込まれないようにあらかじめ手を打っておくことは普通の人間でもできるが、困難な状況下で最善の選択肢をひきあてる能力は人間には必ずしも備わっていないというのも、まあ…それをいっちゃあ…的な真実で。「バツイチ」が再婚を前に苦悩するのと一緒…てのもそれをいっちゃあ、なのだが、まあ自分自身を知る…っていう目の前の課題ほど先送りにしたがる人間の習性は、常に人間は忘れるってのと同じことの「裏返し」なのかも。そうした意味では意図的に、あるいは無意識に目の前の「課題」を見ないですむようにしよう…としてきた私なんかにとっては「耳の痛い」話の連続。だからこそ、まあこの本オススメ。