2011年10月30日日曜日

革命のライオン(新潮社)

著者:佐藤賢一 出版社:新潮社 発行年:2011年 本体価格:476円
フランス革命を扱った小説で単行本では全10巻の予定が全12巻完結になったというシリーズもの。シリーズものには非常に弱く、だいたい大部のシリーズにかぎって、はずれは少ない(はずれだったら途中で打ち切りになっていたはずだし)。で、この本も1789年のベルサイユ宮殿に財務長官ネッケルがかけつける場面から始まるが非常に面白いのである。この1巻ではまだマリー・アントワネットは三部会に少し登壇するだけで登場人物の重要な役割はしめていない。むしろこれまで脇役的存在だったミラボー、ネッケル、デムーランといった人々が小説のなかで動き出す。ロベスピエールの扱いやルイ16世の扱いも既存のフランス革命の小説や映画とは微妙に異なる。「素材」として狩りや錠前いじりが好きなフランス国王であった…としても、作家の解釈によってはさまざまな人物像が描写されるものだ。で、絶対的な歴史的真実なるものが存在しない以上、こうした解釈の面白さは、必ずや後世の代の歴史的解釈も自由かつ柔軟にするものではないかと思う。本の装丁もお洒落で、さらに解説は池上彰さんという豪華さ。

2011年10月28日金曜日

九月が永遠に続けば(新潮社)

著者:沼田まほかる 出版社:新潮社 発行年:2008年 本体価格:629円
発行されたのが平成20年2月1日(文庫版)で、購入したのが平成23年10月30日第15刷。僧侶や会社経営のすえ、小説家となり賞も受賞したということもあって注目を浴びているようだ。発行から3年がすぎて書店では平積みになっている。売り込みの文句は「エロコワ」。でもなあ。個人的にはエロイともコワイとも思わない。まず主人公は41歳のバツイチ主婦で子供は高校生という設定。こういう主人公がどういう恋愛関係をくりひろげようとそれが「エロイ」とは思わない。少なくとも個人的にはそう。で、「こわいか」というと、これも個人差がでてくるが、ぜんぜん怖くなかった…。さまざまな人間関係が繰り広げられる点で「怖い」と思う人もいるのかもしれないが、「自分だったら」と冷静に考えると、こういうただれた人間関係にはウンザリして逃げ出すだろうな、としか思わない。想像力が欠けているのかもしれないが、小説よりも映画とか演劇に向いているストーリーなのかもしれない。「息子」を喪失した…という喪失感覚がなんか感じ取れないんだなあ…。途中思ったのは第一人称で語られるこの「世界」がもし成立するのであれば、一人の人間の頭の中の妄想ではないか、ということ。こういうのって、怖いっていうよりもえげつないと表現するしかないんじゃあ。

2011年10月24日月曜日

イギリス王室物語(講談社)

著者:小林章夫 出版社:講談社 発行年:1996年 本体価格:650円
昨年のアカデミー賞を受賞した「英国王のスピーチ」を見て、「そういえば、エドワード8世に関する本、どこかにあったようなあ」と書棚をさがして、つい全部よみふけってしまった本。映画ではエドワード8世(ガイ・ピアース)は脇役なのだが、堅苦しいヴィクトリア王朝からエドワード王朝にほんのハザマ切り替わる瞬間の英国王として有名だ。この本ではイタリアやドイツにシンパシーを感じていた点やファッションなどに解説が加えられているが、父親のジョージ5世やドイツと戦争状態におちいったさいのジョージ5世は確かに災難だったろう。このほかにヘンリー8世(「チューダー」という海外ドラマが現在レンタル中)、エリザベス1世、ジェームス1世、チャールズ2世(別の映画でジョン・マルコヴィッチがこのチャールズ2世を演じたことがあった)、ジョージ1世、ジョージ4世、ヴィクトリア女王(これも映画化)が取り上げられている。いずれも何度も映画化されたほどの王侯であるほか、伝記も多数執筆されているが、なにせ逸話にはことかかない英国王室。この新書はまだ書店にも置いてあるぐらいロングセラーとなっているようなので、なにか外国映画やドラマをみているさいに、ちょこっと参照するには非常に便利。自分自身も通読したのは5年ぶりか6年ぶりぐらいだが、なにかのおりには読めるように本棚の手にとりやすいところにおいてある。

2011年10月23日日曜日

平台がおまちかね(東京創元社)

著者:大崎梢 出版社:東京創元社 発行年:2011年 本体価格:700円
発行された2011年9月にはあちこちの書店で平積みだったが、11月になると平積みの書店もかなり減ってきた。文庫本も新書も新刊の山だけに、発刊2ヶ月もたつと次々の競合商品が出版されてくる。書店の平台は面積が限定されているため、どうしても新刊優先になってしまうのはしょうがないが、それだけに書店営業はすでに発刊された既刊本も含めてブックフェアやPOP広告などにまい進。そんな書店営業の業務をからませて日常のちょっとした「ほんわかミステリ」を、新人書店営業が解決していく。版元は東京創元社。ミステリの文庫本を地道に発刊しているという印象の出版社だが、著者は実際に書店営業についてまわって取材をかさねた模様。業種としては書店営業だが、地方書店がかたひじはらずに付き合いができる「吉野」という登場人物のパーソナリティは他の業種業態でも勉強になる点多いかも。実際、大手・都会の「営業が地方の小規模メーカーなどに営業するさい、どうしたって相手側にはいろいろ引け目もでてくる。そんな引け目を柔軟にほぐしてしまうのもやり手の営業のスキルなわけで。なかなか知られることが少ない版元と書店の情報流通や物流を担当する職種で、出版社によっては広告宣伝もかねることが多い部署。読書好きの方はもちろん、販売促進にかかわる方にもおすすめ。

街場の現代思想(文藝春秋)

著者:内田樹 出版社:文藝春秋 発行年:2008年 本体価格:571円
評価:☆☆☆☆☆☆
ある意味では非常にわかりやすい内田先生の本。文化資本による階層社会(これ、実際にはもう到来している)、「勝ち負け論」、社内改革論、転職論など。特に117ページが秀逸で。「決断をせまられた時点で」「選択肢はしぼられている」という、まあ、それはそうなんだけど、当事者にとってはいわれたくないよね的な結論がばっさり書かれている。困難な状況に追い込まれないようにあらかじめ手を打っておくことは普通の人間でもできるが、困難な状況下で最善の選択肢をひきあてる能力は人間には必ずしも備わっていないというのも、まあ…それをいっちゃあ…的な真実で。「バツイチ」が再婚を前に苦悩するのと一緒…てのもそれをいっちゃあ、なのだが、まあ自分自身を知る…っていう目の前の課題ほど先送りにしたがる人間の習性は、常に人間は忘れるってのと同じことの「裏返し」なのかも。そうした意味では意図的に、あるいは無意識に目の前の「課題」を見ないですむようにしよう…としてきた私なんかにとっては「耳の痛い」話の連続。だからこそ、まあこの本オススメ。

45歳からの会社人生に不安を感じたら読む本(日本経済新聞出版社)

著者:植田統 出版社:日本経済新聞出版社 発行年:2011年 本体価格:1400円
「時空を超えて…」てな話に人気が集まり、さらにファンタジー系統では10代の青少年になぜか人気があったりする。「時をかける少女」(筒井康隆)などが何度もリメイクされたり、続編があれこれできるのも、タイムトラベルものの人気のあらわれではないかと思う。「もう一つ別の人生」に魅力がある理由。それはおそらく、「あのときああしておけば」という選択肢をあらためて獲得できる手段が「タイムトラベル」ではないか…と個人的には考えている。一定程度現実にもまれると「あのとき、ああすれば」というのは絵空事であることがわかってくるが、10代や20代では「あのときああすれば」がまだ現実味をもって語れる内容だったりする。人間は失われたはずの選択肢がまた回復できたりすると、それだけで元気がでる生物らしい。
で、45歳。もうあれだな。タイムトラベルとかいう絵空事ではなく、現実性のある選択肢のなかで生きていくしかないうえに、将来の可能性もきわめて乏しい。まして2010年代はリーマン・ショックで世界的大不況。どう考えてもばら色の未来とはいいがたく、原子力エネルギーなど将来にむけても不安材料ばかり。45歳以降に不安をかんじないでいられる人間はそれほどいない。こういう本がでてくるとどうしても手にとって読んでしまう。この本の冒頭は有名大学を卒業して外資系企業につとめたものの、若いときの苦労とマネジメント能力の欠如から最終的には45歳をすぎて失業してしまった人の事例。早期退職制度の事例なども含めると45歳以降50歳までで20,000人近い人間が会社から退職していくのだという。これからの日本の経済事情をみると、事実上の早期退職と子会社への出向などがかなり多く発生すると同時に、年金給付などの時期は後ろにずらされていく時代になるのだろう。ビジネススキルより人格を磨くこと、協調性や自己改造、人間関係のメンテナンスなど非常に地道な努力が必要となるが、まあいってみれば年齢を重ねることでオプションが狭くなってきたことの裏返しでもある。コストの高い人材をわざわざ雇う企業は少なく、自分自身の商品価値をみきわめていけ…という哲学的な部分をこの本は著述しており、けっしてスキルの細かい部分やテクニカルなことを解説したわけではないが、全体をとおして流れるオプションの減少とリスクについて率直に語ってくれているあたりは「時をかける少女」の真逆の現実味あふれる著述でもある。元気がでる内容ではないが、かといって不必要に落ち込む内容でもない。45歳以降にはまだ程遠い人にもすでに達してしまっている人にもいずれ来る未来として、この内容はふまえておいてソンはない。
就職や転職が目的化してしまうと、本当の自分の目標を見失ってしまうこともある。ある種、目の前に就職戦争や転職競争などがあると、それを突破することが目的化してしまう。が、田舎か郊外で、一軒家をもち、そこでほどほどの在宅業務をこなしながら映画と読書を楽しむ…という生活がばら色としている人間には、たとえ望むような職業でなくても、そこそこ目的は達成できてしまったりする。「不安」の内容も個人差があるが、一度立ち止まって人生考えたい人にはこの冷静な著述。けっこう勉強になる。

骸の爪(幻冬舎)

著者:道尾秀介 出版社:幻冬舎 発行年:2009年 本体価格:724円
オカルトシリーズかと思いきや、本作は怪奇現象のようにみえて実はそうでないエピソード。実は科学的ミステリ第2弾。また仏像に関するコネタがちりばめられており、ストーリーに飽きてきたころに適切に仏像や仏教に関するエピソードが展開される。ミステリ関係の本って実は特殊な業界やジャンルのエピソードで興味関心を補強してくれる本が多いが、この本も「ああ、単調だな」というころあいに、小さなエピソードで読むエネルギーを補強してくれる。で、面白さっていうことでいうと、個人的にはつまらなかった。「物語」はどっちかっていうと火曜サスペンスっぽい展開で、閉ざされた空間であるはずの「場所」のイメージがいまひとつ伝わってこない。もう少し自然描写を上手くしてほしかったな、という気分。これ、文字で滋賀県の山間の…といっても、イメージがわきにくいからだと思う。せっかく仏像や寺社を扱っているのだし、ミステリも文芸作品の一つなんだからアイデア以外に読ませる文章がもう少しあってもいい。前半の会話と後半の物語の展開の明暗のコントラストがまた不自然なような気もするし。 シリーズとしては第1作「背の眼」の6掛け程度といった感じ。