2011年5月31日火曜日

デスクをメタボにしない理系志向(中央公論新社)

著者:本多弘美 出版社:中央公論新社 発行年:2011年 本体価格:760円
摂取や消化などになぞらえて機能的な収納術について語る本。いや、昔は雑然とすべてを抱え込んでいた私なのだが、ある日気づく。「ためておくだけではなくて、それを整理して加工してはじめて情報が知識になって活用できる」、と。自分なりの整理哲学は一応持っている。「スペースに応じた分は所有し、それ以外は機会あるごとに入れ替えていく」。この本になぞらえれば「新陳代謝」ということになるだろうか。一定の物理的空間の制限までは書籍を購入するが、それを越えそうになったらすべて捨てる。一定程度空間を確保してからまた余剰が出てきたら余分なものから捨てていくというきわめてシンプルな方法だ。
そうした観点からすると無意識のうちに「理系志向」で収納していたことになる。ちなみにこの本の148ページでは「マトリックス」とはもともと「何かを生み出すもの」というラテン語に由来する言葉だとのこと。マトリックスにして情報を整理すると確かに何か新しい情報が生み出されてくる。本を読んでいてこんな知識が頭に入ってくるのもまた楽しい。

野村克也に挑んだ13人のサムライたち(双葉社)

著者:野村克也 出版社:双葉社 発行年:2011年 本体価格:800円
「週刊大衆」を発刊し、たまに骨太な文芸作品なども出版したりする双葉社の新書である。企画がとにかくユニークな出版社だが、この本も日本文芸社から既刊の新書に続く野村克也元監督に関する新書。ヤクルトの黄金時代を支えた西村投手、長島一茂選手、池山、飯田、古田といった選手と阪神時代の今岡選手、楽天時代の一場、岩隈などの選手が取り上げられている。苫篠選手がトップバッターで登場するが、足が速くてスイッチヒッターという特徴をもつユーティリティ・プレイヤーだった。ファンとしても期待を寄せていた選手だったが、いかんせん90年代のヤクルトでは、細かなチームプレーを得意とする選手が数多く、活躍の場がなかったのが残念。広島に移籍した当初はかなりの打率を上げたが、翌年に引退している。自分のセールスポイントをいかに伸ばすか、才能をいかに活用するか、多数のライバルのなかでいかにモチベーションを保ち、自分をみがくべきかといった「実話」があふれている。「人を生かす」「人を生む」という観点からすると野村克也監督がおそらく名監督ということになるが、その裏側では、活用されなかった選手もいる。10年後の「結果論」といえば、そういう面が確かにある本かもしれない。ただ、他のチームに移籍するなどしてもそのまま日の目をみることがなかった選手もいるだけに、確率としては「一芸に秀でる」「謙虚」といった要素が人生のサバイバルゲームに重要な要素をしめることもまた否定できない。さらにこれから10年後、この13人(実際にはセットアッパーを勤めた山田勉投手など他の選手にもページがさかれている)がまたグラウンドとはまた違った世界で、きっと勝負しつづけている姿を見れる思いがする。

2011年5月29日日曜日

累犯障害者(新潮社)

著者:山本譲司 出版社:新潮社 発行年:2009年(文庫本) 本体価格:476円(文庫本) 評価:☆☆☆☆☆
著者はかつて管直人内閣総理大臣の公設秘書、衆議院議員。その後、秘書給与流用事件で実刑判決を受ける。その実刑に服した期間の様子は「獄窓記」として別にルポタージュ化。この本も名作だったが、知的障碍者と犯罪の関係を描写したこの本も名作だ。障害者年金手帳を確保して「搾取」を続けるヤクザなどが描写されている。養子縁組で複数の知的障害者の養子を「確保」しアパートに詰め込んで、その名義で携帯電話などの契約を結んだりもするエピソードが印象的(養父や強要や覚せい剤取締法違反などで実刑判決。養子縁組の無効を求める訴訟でこの被害者は家庭裁判所から養子縁組の無効の判決を獲得している)。また全国に50箇所しかないとされている婦人保護施設、32~60箇所の情緒障害時短期治療施設や偽装結婚のエピソードも興味深い。ここでも偽装結婚(韓国の男性と日本の女性、韓国の女性と日本の男性)に知的障害者が「食い物」にされている実情が記されている。愛知県の浜松ろうあ者殺人事件(かつて日本の刑法40条に聾唖者の刑を軽減するという条文があった。現在は削除)を取り扱った章では、「手話辞典」の日本語文法と実際の文法との差などが紹介されている。また監獄法から受刑者処遇法に改組(法)されるプロセスなど。触法障碍者という分類になるが、この本がきっかけとなって、これまで一種タブーにもなってきた触法障碍者の「矯正」というテーマが表だって取り組まれるようになってきたことが文庫版のあとがきに記されている。セーフティネットという言葉は、イメージとしてはせいぜい低所得者への所得補助といった感じだが、この本の生々しい現実を見ると税金の使い道や福祉のあり方などはそれほど甘いものではないことがわかる。

2011年5月24日火曜日

S式柴田の生講義 入門民法1(自由国民社)

著者:柴田孝之 出版社:自由国民社 発行年:2009年 本体価格:2,000円 評価:☆☆☆☆☆
いろいろ民法の本を読んできたが、初心者にわかりやすく、またある程度法律の知識がついていても新たな発見がある本というと、この本に尽きる。第1版から改訂のたびに拝読しているが、2009年に購入したこの第6版は購入してから約1年半は本棚に。で、手にとって通勤時に読んでいるがやはり面白く、そして深い民法の世界に入れる。もちろん不満がないわけではない。たまに目につく誤字誤植はやはり健在だが、これはもちろん微々たる瑕疵であって、この書籍の価値をそこなうものではない。またこれから増刷されている本ではこうした瑕疵は「治癒」されているはずだ。今回は法律行為の効力発生と効果帰属についてイメージをいだくことができた。この「イメージ」が実はなかなかわきにくいのが法律で、一番最初は「承役地」というイメージがわくまでえらい時間を要した。
問題解決型の学習方法など法律の勉強方法や条文重視の勉強方法なども紹介されており、256ページと見た目以上にぶあつい内容もあいまって本体価格2,000円はむしろお買い得の値段といえるだろう。第7版が出れば、もちろんあらためて購入する。

2011年5月22日日曜日

貸し込み(上)(下)

著者:黒木亮 出版社:角川書店 発行年:2010年(文庫版) 本体価格:629円(上巻)・705円(下巻)
黒木亮氏の著作物には国際金融が多いが、この本は主人公はアメリカの投資銀行家だが、舞台はあくまで日本。しかも登場してくる銀行は日本にかつて実在した関西系の何某都市銀行。エピソードの多くは裁判所にさかれるが、準備書面の内容から証拠書類、口述など臨場感あふれる描写が多数。日本の裁判における偽証罪の扱いの軽さや意思能力の鑑定などが興味深い。金融機関側の人間についてはかなり取材と実際の人物を「あて書き」しているものと推定される。「底なし沼のような目をした二重瞼」の「秘書役」というのは実際のS銀行のなかにいた人物だろうし、多少設定は変えてあるが金融庁に資料を隠蔽した所在を連絡したのは実際の東海地方に営業力をもっていたT銀行。部分部分で実際の人物や組織を想像できるように書き、脚色部分は脚色部分として読める内容で、しかもこの本はミステリーとしても優れた内容だ。事理弁識能力が欠けた顧客に20億を超える融資をおこない、さらには裁判に対しては和解せずに判決まで持ち込むというこのエピソード、最終的にはモデルとなった銀行の「終末」と同様に一定の解決をみるが、実際のモデルがたとえわからない読者にとっても興味深く、面白い内容になっている。さすがに現在ではこういう乱暴な金融機関は減少していると思うが、1980年代~90年代にバブル時代の乱脈融資とその強引な後始末は「金融機関の強引さ」という意味では一貫していたことが窺われる。とはいえ、組織の風土は一定程度は脈々と受け継がれていく。こういう「強引な文化」の遺伝子とそれに反発する一部の金融マンっていう構図、多少は変化しても今でも共通する部分があるのかもしれない。

2011年5月16日月曜日

福島原発メルトダウン(朝日新聞出版)

福島原発メルトダウン(朝日新聞出版) 著者:広瀬隆 出版社:朝日新聞出版社 発行年:2011年 本体価格:740円 評価:☆☆☆☆☆
東京電力と経済産業省の言い分が非常に強くマスコミでも報道されているが、はたしてそれが真実なのかどうか確信がもてない。「想定外」ということを東京電力側が強調するが、マグニチュードの規模が改ざんされていなければ、確かにそうした「想定外」という言い分にも一理あるが、マグニチュードの科学的算定の根拠もこれからしっかり確認しなければならないし、非常用電源の設置方法や津波対策の規模などもはたして予見可能なレベルだったのかどうかも斟酌されなければならないだろう。こうした視点がなかなかテレビなどでは報道されないということ自体が、一種の世論捜査ではないかとも思う。福島原子力発電所では3号機でプルサーマルが始動しており、水や水蒸気の排出にはプルトニウムが含まれている。これが1号機や2号機との違いだが、はたしてそこまで報道してくれたテレビ局や新聞社があったかどうか。東京新聞が一人気をはいてはいるが。
放射性物質の蓄積の問題や浜岡原発の影響力の大きさなどを具体的に指摘しているのはこの本のみ。LNGによる発電で代替するべきという案も提案されている。サハリン計画でLNGを東京電力管内にパルプラインでひいてくるという案も昔あったが、それを断ったのがT電力のK会長だったことを思い出す。今だからこそ注目してその内容を読み込むべき新書。

2011年5月11日水曜日

モチベーションを思うまま高める方法(三笠書房)

著者:小山龍介 出版社:三笠書房 発行年:2011年 本体価格:1300円
モチベーションには内面的な内発的動機と外面的な外発的動機の2種類がある。著者は内発的動機を重視して論理を展開しているが、これはかなりレベルの高い技だと思う。実際には自己実現的な動機で動ける人間はそれほど多くはなく、外面的動機付けで何か物事を始めていくのが一番よい。ただし、一定水準以後は、金儲けや対面といった外発的動機から内面的動機に移行していく必要性は確かにある。自分自身へのご褒美といった外発的動機で刺激付けをすることに限界を感じた段階でこの本のように内発的動機付けを重視していくのが効果的ではないかと思う。自分自身でモチベーションを管理していく時代だが、それは必ずしも報酬を意識しないという意味ではない。必要に応じて報酬を自分自身で用意していくこともまたモチベーション管理の一つだと思う。その意味では「怒り」「屈辱」ですら仕事エネルギーに変えることができる著者の「肝」はたいしたものだと思う。「怒り」が妙な屈折した劣等感に転化していく人が多いが、結局それでは生産的な成果物は生み出せないからだ。また86ページに著述されているような「地味なプロセス」を重視している点については巷のビジネス本のなかでは珍しく、また正論ではないかと思う。「上達」や「自己実現」の内訳は実は地道な努力の結果であることが多い。そうしたあたりまえのことが、あたりまえに、しかも楽しくできるというのがモチベーション管理にふさわしい自己統制のできる人間なのではないかと思う。