2012年2月12日日曜日

愛は脳を活性化する(岩波書店)

著者:松本元 出版社:岩波書店 発行年:1996年 本体価格:1200円
 睡眠時間をけずるよりもたっぷり寝て集中して勉強する、予習よりも復習に力を置く、重要なことは繰り返し学習する…こうしたことは今ではだいたい常識化されつつあるが、10年前までは復習よりも予習が、睡眠よりも徹夜で勉強することが推奨されていることもあった。1996年発行のこの本では、今はではやや古びた著述もあるように思われるが、それでも情動を活性化することで脳を活性化するなど、明日に希望と意欲をもたせてくれるコンテンツが凝縮して掲載されている。最終的には人文科学や社会科学と自然科学との総合なども提唱されており、コンパクトサイズながら興味関心をかなりひく内容。「できない」と思うよりも「できる」と確信することの重要さがわかるようになる。逆に自分自身に自信がもてない人はやはり自信をもつことから始めないとなかなか進歩もしにくいのかもしれないが。

2012年2月10日金曜日

議会の迷走(集英社)

著者:佐藤賢一 出版社:集英社 発行年:2012年 本体価格:495円
 後楽園駅の丸善では平台の最後の1冊をつかみとって購入。バスティーユが陥落してから1年後、フランス憲法制定国民議会はカソリック教会に与えていた特権をめぐって紛糾。フランス軍隊を掌握したラファイエットは、ナンシー事件など平民と貴族の対立が根底にあるにもかかわらず首謀者を含む事件に参加した兵隊を殺害する。あくまで立憲王国制度をめざすミラボーだったが体調の悪化が続く…。いやあ面白い。華々しいフランス革命という印象がくつがえる「地道で陰湿な権力争いの構図」。基本はもちろん人権主義なのだろうけれど実際のところ、この本にあるような権力闘争が真のフランス革命の様相だったのだと確信する。純粋なルソーの信奉者から、権力志向の元貴族や司祭などさまざまな階級で「未来」を描いて、その「未来」が交錯したところで権力闘争が起こる。まだこの5巻ではルイ16世の家族は逃亡ははたしておらずロベスピエールもまだ国会議員の一人に過ぎない。第6巻ではミラボーがいよいよジャコバンクラブのトップにたつ。また本屋に走らなければ。

2012年2月7日火曜日

采配(ダイヤモンド社)

著者:落合博満 出版社:ダイヤモンド社 発行年:2011年 本体価格:1500円
 この本かなり売れているようだ。スポーツ関連の棚にあったが平積みで2011年11月発行で12月で4刷。おそらくはセ・リーグ優勝を果たしたにもかかわらず中日監督を事実上の「更迭」というめったにない事件も関係あると思う。また就任当初はかなり独自の戦略をとるのではないか、と予測されていたが実際には守りに徹したオーソドックスな野球。岩瀬と浅尾のダブルストッパーに対する考え方やリーグ屈指の井端と荒木の二遊間のコンバートの考え方など表面的な報道ではつかめなかった真相がわかる本になっている。とってつけたようなビジネスパーソンへの配慮のくだりが、個人的にはあまりなじめない本だったが、それでも面白いことは面白い。「できる」と「できない」をふまえた「采配」というのは、大学中退からプロ野球の三冠王へと山谷両方を経験した落合でないと書けないだろう。「面白い」というのは、いわゆる勝ち組の選手たちのエピソードではなく、心ならずもユニフォームを脱いでいった「負け組」へのくだり。目標を高く持つといった「勝ち組」へのアドバイスは「負け組」はそうではなかったのか、という反面教師の教えともなる。「勝てないときは負けない努力」というのも、「負けない努力」をしなかった選手がグランドをさっていたのだな、と裏読みできる構図に。あまり華のある引き際ではなかったが、まだまだ今後の監督就任もありうる落合氏。その野球理論と負け組のセオリーを知るのには面白い内容。

2012年2月5日日曜日

2000年間で最大の発明は何か(草思社)

著者:ジョン・ブロックマン 出版社:草思社 発行年:2000年 本体価格:1500円
 各方面のアメリカの知識人がウェブをメディアにして2000年間の最大の発明について議論する。万能チューリング機械、印刷技術、インドアラビア数字、「見えない技術体系」などさまざまな解答が並び、最後を著者がしめくくる。ありきたりでない解答と理由がコンパクトに並置されており、書籍のどこのページをあけても読書の世界に引き込まれる。これぞまさしく印刷技術の成果…ではあるのだが、ここ2000年の「発明」にあたるかどうか、でも実は深い議論がなされる(ミノス文明や中国の印刷などについても最終的には議論が深められるので)。文明はゆるやかに継続しているひとつの体系ではあるが、これを微分していくと節目節目に「発明」が関与していることが判明してくるという次第。たとえばフランス革命にしても印刷技術の発明がなければ新聞は発行されていなかったろうし、インドアラビア数字がなければ当時のフランス王室の財政赤字についても民衆は意思決定のしようがなかった。犂がなければそもそも農業生産そのものがフランス民衆の生活を維持できなかったし、教育の普及がなければ民主主義についての判断も当時はできなかっただろう。鏡の発明は民衆の「自我」を覚醒させたことだろうし、ドイツ騎兵がのっていた馬はウクライナで「発明」(?)され、鐙や首あては遊牧民族が「開発」したもの。複式簿記は商業ブルジョワの商売を発展させて資本主義の土台を築いたし、科学的方法が宗教からの解放を可能にした。というわけでこの1冊のなかに並べられている文明の道具は、すべて歴史的事件の背後にひそむ重要アイテム。発明はまさしく発明そのものよりも発明をどれだけ利用できるか、にかかっていたわけである。

2012年2月4日土曜日

国語入試問題必勝法(講談社)

著者:清水義範 出版社:講談社 発行年:1990年 本体価格:420円
 ブックオフで100円で購入。読み出すと、なんだか懐かしい感じが…。1990年代に一度読んでいたからかもしれない。で、読み返すと非常に「懐かしい」。あらすじが懐かしいというよりも当時清水義範が取り組んでいたパスティーシュ小説というジャンルそのものがなつかしく、そういえば現在のライターの文章は非常にこなれている反面、癖がなく、このライターの文章は読めばすぐわかる、というほど個性が確立していない。明治時代の前半には、口語体あり文語体あり、あるいはその両者がいりまじった文体ありで、その完成は夏目漱石の登場を待つしかなかったらしいが、21世紀の日本語は非常に標準化されている。丸谷才一さんのパスティーシュといっても肝心の丸谷さんの文体そのものがなかなか日常的に読みなれるような環境ではなくなったため、今の10代がこの本を読んでも、なかなか素直に「面白い」とは感じ取れないのではないか。パスティーシュというジャンル、もしかすると現在書店を席捲しているビジネス本のジャンルでは、新たな地平が開けるかもしれないが、逆にビジネス書籍を読む読者層は本を読んで笑う…という経験に対するニーズがなさそうな予感。

2012年2月2日木曜日

先生はえらい(筑摩書房)

著者:内田樹 出版社:筑摩書房 発行年:2005年 本体価格:760円
 ポストモダンの考えだと「自分らしさ」を追求するってのはあまり意味がなく。だって自分自身の「これが絶対」というのは、実のところ誰も「それが絶対」とは断言できないし、ましてや自分自身で「これが絶対」などともいえない。「自己創設のれん」は現実の世界でも無意味・無価値である。そこで「少なくともAさんの…とは自分は違う」「Bさんのこれこれとも違う」というように他人と自分の差異をみることによって「自分はどうやら…らしいといえそうだ」ぐらいの感覚はつかめる。他者性ってそういうことだと思う。で、この本は「他者性」にすごく深いところまで入り込み、「師」というのを市場経済などとは切り離したところで、誤解もしくは解釈の自由から存在するところだ、といっている。ま、逆に言うと「誤解の可能性のかけらもない」っていうのは俗物といっているのにも等しい。実際、「いったまんま」というのは、非常につまらん存在でもある。ある程度、解釈の玄妙さがないと、誤解する自由すら与えてもくれない。そうした誤解のなさはモダンであってもポストモダンであっても、「三四郎」のような近代の世界であっても非常につまらないものである。価値というところから遠く離れた世界で展開されるであろうイメージとコミュニケーションの複雑で、しかも円滑な動き。師弟の関係とはおそらくそうした自由自在の運動が必要なのだろう。

2012年2月1日水曜日

働くことは生きること(講談社)

著者:小関智弘 出版社:講談社 発行年:2002年 本体価格:700円
 いまどきこのタイトルでは読者が書店で手に取ることも少なくなるのかもしれない。ただ中身は絶品で大田区の中小企業で旋盤工として働きながら、「労働」の意味を根源から考え尽くした力作。1933年生まれということで、若かりしころは労働運動にもちょっと染まったようだが、その後、イデオロギーから離れて「労働」「勤務」「人間」を「鉄を削る」という作業のなかからじっくり考えていく。内容面はひたすら「貧しい」のだが、いわゆる抽象的な議論ではなくて、鉄を削ったり、子供の頃の父親と叔父の仕事ぶりなどから、「働く」ということの「味わい」が醸し出されていく。ただすべての「労働者」を肯定しているのではなくて、よく読んでみるとただ単に機械装置のオペレーションになったり「自動化した労働」をしている人間には存外厳しい内容だ。ロボットのように働くのではなく試行錯誤を繰り返して鉄と対話していくような地道な努力を積み重ねて差別化していくプロセスこそがこの本の醍醐味。さまざまな部品や製品を作って場数をふみ、その都度いろいろな工夫をする。その個別の努力をつむぎあわせて、設計書からイメージを紡ぎ出せるようにする…というのは実は自分自身の「仕事」にも大きく関係してくる。鉄を切削して圧延していく工程から「労働」をみる。これって実は最良のビジネス書籍ではあるまいか。