2010年3月16日火曜日

一生モノの勉強法(東洋経済新報社)

著者:鎌田浩毅 出版社:東洋経済新報社 発行年:2009年 本体価格:1500円
 「成功術 時間の戦略」(文春)などを読んでその存在を知ったが、火山学の権威にして、過去のビジネス書籍の系譜をおさえて知識と教養の整理術を紹介するという京都大学教授。「投資がなければリターンがない」というビジネス感覚とも共通するセンスがみえかくれすぐが、研究開発費の調達と研究成果が問われる職種だけに、ビジネスに通じるものが実際にあるのかもしれない。
 新聞の切り抜きなどを書籍に集約する方法やクリアフォルダを山ほど使うという方法もどことなく大学教授というよりはビジネスパーソン的な方法だが考えてみると著者は研究室のデータ整理のほかに実際にフィールドワークもこなさざるをえない「火山」の研究がテーマ。場所をとるだけの書籍の保管よりも書籍やデータをいかに効率よく運用していくかという視点がでてくるのも当然なのだろう。
 昨年(2009年8月ごろ)には実は読み終わっていたのだがなんとなく気になって読み終わったあともそのまま机の上にずっとおいておいた。書店では現在も平積みとなっているお店もあり、この単行本はビジネスパーソンはもちろん学生や一般読者までさらに読者層が持続的に拡大している模様。一過性のビジネス書籍はわりと最近多くなってきているが、ロングセラーになるのはごく一部。もしかするとこの本、その珍しいロングセラーの「勉強法本」になる可能性もある。

「あれこれ考えて動けない」をやめる9つの習慣(大和書房)

著者:和田秀樹 出版社:大和書房 発行年:2009年 本体価格:1300円
評価:☆☆☆☆☆
 「試行錯誤」「実行力」「試行力」「共感」「甘え」「過去問題の研究」といった種々の事例をこれまで和田秀樹氏の著作物から教わり、それぞれ現実の場面で実行に移していった。実際に著作物の内容を実践してみて、個人差はあるだろうけれども、対費用効果が最も高いのはやはり和田秀樹氏の著作物だと思う。「効率性」を重視する経済評論家の何某氏の著作物も同様に実践してみようとしたが、あまりにも人間離れした「ワザ」が多くて途中で挫折。やはり適度に人間の弱さや迷いといったものをあらかじめ想定した和田秀樹氏の本は、私のような凡人には実行しやすい。日曜日や土曜日などにどうしても予定をあれこれ積み込みたくなるところだが「何もしないのも行動のひとつ」(139ページ)と断定してもらえるとほっとしたくなる。他人の視線をさらりと流せる人間というフレーズもでてくるのだが、他人の評価や視線をさらっと受け流すことができればやはり日常生活の重荷は相当に減少すると思う。ま、「冷静に考えれば事故にあう確率は0でもなければ1でもない」といった考え方(27ページ)、パソコンや数字による管理体制が強化されていくであろう今後はさらに大事な考え方になっていくだろう。

「手書き」の力(PHP研究所)

著者:和田茂夫 出版社:PHP研究所 発行年:2008年 本体価格:800円
 デジタルツールと手書きの効用の両方を活用する方法を探る。POP広告などは昔から印刷よりも手書きのほうが力が入っているように感じていたが、著者の「世界にひとつしかないメッセージ」という説明でなるほどと腑に落ちる。「手紙は別便で送るのが作法」という簡単なマナーも紹介されていて冷や汗。つい最近もお祝い事があった方に贈り物をしたのだが手紙の別便発送まではしていなかった。これって無作法ということに。昔の人の「文房四宝」という言葉の意味なども個人的にはなるほどという想い。文字を書くというのはそれだけ大事な意味を歴史の中では持っていたのだから、これからデジタルツールの時代になっても文字の重さ、手書きの重さの意味は変わらないだろう。あまり型にはまったメモの方法については著者は賛成ではないらしく、「手書き」で想いをこめるというシンプルだが大事なメッセージがこめられている新書ではないかと思う。ボールペンの種類(油性・水性・ゲル)などちょっとした「ワザ」が紹介されているのも魅力か。ビジネスパーソン向けということで電車の中などで読むにもちょうどいい内容。

創造はシステムである(角川書店)

著者:中尾政之 出版社:角川書店 発行年:2009年 本体価格:705円 評価:☆☆☆☆
 ビジネス書籍が売れているという書店の状況のなかで、ちょっと埋もれがちなのが理工系の先生方が執筆した本。ただしこの本に書かれている要求定義を解決する「設計解」という考え方は理工系のみならずビジネスにも人文系にも応用可能な考え方だと思う。正直いうと経営学関係の抽象的なグラフよりも要求定義を明確にして複数存在する設計解を考えるという説明のほうが個人的にはしっくりくる部分がある。ビジネス書籍の場合にはどうしても執筆した人の個人の主観が大きく入ってくるため、使用されている用語も不統一だし、その紹介されているスキルも必ずしも汎用性があるとは限らないという限界がある。理工系のケースでは数学的に一応汎用性は担保されているので、創造という人文的な用語も「要求定義」「思考演算」「設計解」という用語で統一感をもたして説明してくれると、そこから読者個人の生活に応用することも可能となる。たとえばワンマン社長の思考方法の「思考演算」はパソコンとは違ってブラックボックスではあるのだが、「要求定義」とインプット、「設計解」をアウトプットとして観察をしていると「通常とは逆のことを言っているだけ」という思考演算式が導出されるといった具合。機能を分離させて並行するとか、設計解同士が干渉することがあるとか、無味乾燥にみえてこれだけ応用がきく考え方もないと思う。最終的にはここのモジュラー(個別具体的な解決策)に統一感(インテグリティ)をもたせれば、生活に無理な負担をかけることなく問題解決ができるという仕組みとなる。「仕組み」って結局、一種の「演算式」となるわけで、「これは○○方式」「これは○○」とか人文的なやり方だとインテグリティをもたせるのはかえって大変なことになる。この内容で新書サイズで本体価格705円はかなりお値打ちもの。

セックス格差社会(宝島社新書)

著者:門倉貴史 出版社:宝島社 発行年:2008年 本体価格:667円 評価:☆☆☆☆
 門倉貴史氏の著作物は「アングラ」とよばれる裏社会のお金の流れを一般公開されている統計情報からなるべく客観的に明らかにしていこうという独自の世界を構築している。この本も「所得格差」がどういう影響を生活に与えているのか、政府の政策は子供手当てよりも所得補助のほうを優先するべきではないかという提案になっている。ただしタイトルがいかんせんどぎついため、かえって「レジに持っていくのはどうもなあ」という気後れを生じさせるのも事実であり…。
 所得の高い層の男性についてはセックスレス、所得が低い男性については最初から女性の選択条件を満たしていないので結婚もできず、またいわゆる風俗産業の料金は高めに設定されているため、そうした「サービス」の利用もできなくなっているという状況を説明。生きるか死ぬかといった場面では確かに風俗などに通っている場合ではなくて、食事や寝場所の確保のほうが重要となる。
 その一方で最近は「肌」が綺麗な女性がもてる傾向にあるということで、化粧品の販売市場の拡大があるほか、美容整形市場も拡大の様相を呈するといった経済波及効果も。その一方で30代前半で年収が1500万円を超える男性の9割が既婚者である一方、年収200万円以下だと結婚しているのは3割で7割近くが独身という状況に。話は空想的社会主義者フーリエの「ファランステール」からEUの移民問題まで幅広く展開して非常に面白い内容に。タイトルさえもう少し「まっとう」な形にしておけばもっと売れ行きは良くなると思う。日本ではまだまだどぎついタイトルはあまり好まれないという雰囲気あると思う。あ、ちなみに世の中の84パーセントの女性は年収400万円以下の男性を結婚対象とはみなさないという統計も紹介されている。「年収なんて気にしない」という女性は全体の16パーセントで、需要曲線と供給曲線を描くと均衡点が他の消費財とは異なり安定していない。一定のタテの供給曲線を境にして「結婚できない女性」と「結婚できない男性」の両者が並存する状況がグラフ化されているので(20ページ)、これはなかなか面白い説明だと感心。

2010年3月14日日曜日

戦略の失敗学(東洋経済新報社)

著者:森谷正規 出版社:東洋経済新報社 発行年:2009年 本体価格:1800円
 これまですでに発生した企業のビジネス戦略の失敗例と今後「失敗するであろう」事例の2種類から構成されている。「世の中の大きな流れ」にのれないと失敗する…というきわめてもっともな理屈づけなのだが、「それでは世の中の流れをどうつかむか」「世の中の流れとはなにか」というもう少し細分化した分析がないと応用としては使えない。これは読者の側の作業になるのだろう。電気自動車が失敗してハイブリッド車が伸びてくるといった予想や、中国は経済発展が続くがソフトウェア産業では雇用吸収力が弱いのでインドの今後の経済発展率は弱いのではないかといった推計はけっこうもっともな気がする。東京電力やソニーも「これからの失敗事例」のなかに含まれているのだが、いずれも巨大企業でさらには資本蓄積も相当おこなわれている老舗企業であるため、そう簡単には「失敗」することもなさそう。おそらくこうした大企業が「失敗」するというのは相当大きな科学技術の変化と情報装置の変化がないとちょっとありえないような気がする。現状をよく分析して将来にわたる戦術・戦略をねる。そのとおりだと思うのだが最初に立案した戦略がおうおうにして途中で不具合になるものの組織体が一体性を保つにはその状況にあわなくなった計画をいかに変更するかでまたもめることになる…。成功よりも失敗の事例のほうが学ぶことが多いというが、この本に収録された事例の失敗要因は、さらに別の解釈や要因にもつながりそうだ。

2010年3月13日土曜日

ユダヤ警官同盟 上巻・下巻(新潮社)

ユダヤ警官同盟 上巻(新潮社)
著者:マイケル・シェイボン 出版社:新潮社 発行年:2009年 本体価格:590円

アラスカ・シトカ特別区。流浪の民ユダヤ人居住が認められた地区だが2007年、アメリカ・アラスカ州に編入される直前にある。そんな最中、心に傷をもつシトカ特別地区警察の刑事ランツマン。ホテルで殺害されたヘロイン中毒のユダヤ人とチェスの盤面に心を引かれ捜査に乗り出すという設定。イディッシュ語(ドイツ語の一部でありユダヤ人が用いる言語)やイスラエル領土問題、ディアスポラ(離散)など見慣れた単語が並ぶが、しばらく読んでいるうちに違和感がでてくる。「そんな歴史はあったのか」、と。ハードボイルド調に書かれたこの小説、歴史も一部修正された異なる次元の世界で発生している異なる世界の話だとだんだんわかってくる。この世界では「満州国」という国も存在するのだ。そして物語は安ホテルで惨殺された青年がなにゆえに「その場所で惨殺されなければならなかったのか」という核心にふみこんでいく…。ユダヤの救世主伝説と架空のアラスカのユダヤ人居住区がからみあい、物語はパレスチナへも波及していく。地味な物語だが、SF的要素あり、歴史の面白さありでやはり上巻から下巻まで一気に読み通してしまう面白さ。