2008年7月19日土曜日

偽善エコロジー(幻冬舎)

著者:武田邦彦 出版社:幻冬舎 発行年:2008年
評価:☆☆☆☆
 石油を本当に大事に使うためにはどうすればよいか,といった視点から,たとえばレジ袋は石油を精製するさいにこれまで燃やされていた部分を有効活用していたいわば廃棄物を利用したものなのでむしろ積極的に利用すべきことなどを説く。実際に容器包装リサイクル法が改正されて以後,レジ袋の削減に取り組む小売商が増加したが,それは法律でレジ袋などの削減措置について国に報告する義務が一部の小売商にでてきたためだ。もしレジ袋が使われなくなれば,それはまた燃やすこととなり,環境問題の本来の趣旨から逸脱してしまう。バイオエタノールについても筆者は強い疑問を呈しており,トウモロコシなどがもし石油などの代替エネルギーになれば,食糧としても販売できるし,エネルギー源としても販売できるという一種の売り上げ安定効果が出てくる。バイオエタノールを推奨したのはブッシュ大統領。石油関連企業との関係の深さが指摘されている大統領だが,その人物が推進者ということであるとやはりバイオエタノールについてもシンプルに環境にいいとは断言するわけには行くまい。紙のリサイクルなど他の諸問題についても著者はとりあげているが,「環境にいい」というのはつきつめていくとどういうことが「いい」のか,という根源的な問題に立ち向かうことになる。けっしてエコロジーや環境問題を軽視しているわけではなく,本当にバランスのとれた環境問題対策はいかにあるべきかをわかりやすく解説してくれた本と言えるだろう。わかりやすさと筆者自身がまだ結論がでていないことについては率直にその旨が記されているので非常に良心的な書籍だ。

2008年7月14日月曜日

できる人の上手な手帳の使い方(中経文庫)

著者:梅澤庄亮 出版社:中経文庫 発行年:2006年
評価:☆☆
 見開き2ページ構成の文庫本で,特定のメーカーには依存しない形でのメモ論。「丈夫なものを選ぶ」「いったん決めたらもうあれこれいじらない」というのが個人的には参考になる。ある程度高価なメモを購入したほうが「その気持ちになる」というのにも賛成。現在A5サイズの牛革のノートパッドを使用してロディアのA5サイズと無印良品のノートを併用する形式,さらに超整理手帳のリフィルを利用という形に落ち着いているが,この形式が自分にあっているようなので,この方式を継続していこうと思う。あとはこの手の本を読んで,略式記号や情報の削除は転記してからといったチップスを活用していくべきなのだろう。文房具やメモの本は非常に楽しいのだが,最終的にはやはり個人個人ですでに確立している方式に,自分にあいそうなチューンアップを取り込んでいく,というのが一番妥当な形のようだ。

反転~闇社会の守護神と呼ばれて~(幻冬舎)

著者名:田中森一 出版社:幻冬舎 発行年:2007年
評価:☆☆☆
 著者の田中森一氏はすでに最高裁への上告が棄却され,実刑判決3年が確定。すでに弁護士資格も喪失したようだが,それでもなお,この本は興味深い内容だ。主に前半が大阪地検,東京地検に在職中の回顧談,後半が弁護士になってからの活動がメインとなるが,自らのプライバシーも明らかにしつつ,政治的判断と検事のあり方をめぐる前半が非常に面白い。また実名で登場する政治家の中でもY氏の行動はきわめて興味深く,仕手筋そのほかの行動形態も興味深いの一言に尽きる。M重工CB事件についても実際に捜査を手がけていたのがこの田中元検事だったということで,当時は非常に不透明な印象をいだいていたのだがある程度この本を読んで裏事情が判明したような気もする。もちろん一方的にこの本の内容を信じるわけにはいかないが,これまで不透明だった種々の事件に一種のリアリティというか別の側面から光があたるのは好ましい。もともと相当に力量がある上に,エスタプリッシュメントともアウトローとも親交があったということで,後に一つの歴史資料としても役にたつ本になるだろう。「いろいろな思惑が交錯」する世界の中で,一つの考え方が明示されたともいえる。もちろん編集者がかなりうまく章立てそのほかを勘案したのだとは思うが,幼少期や学生時代の想い出と,フラッシュバックするように「検察庁時代」「アウトローの時代」と巧みにおありまぜた構成は,エンターテイメント小説以上の面白さ。原稿用紙820枚の大部だが一気に読み終わってしまう面白さである。

2008年7月13日日曜日

創価学会(新潮社)

著者名:島田裕巳 出版社:新潮社 発行年:2004年
評価;☆☆☆
 「創価学会は,日本の社会のなかで,もっともアクティブな巨大組織である」とまず著者は生協や連合などの組合組織,神社本庁や既成仏教集団との違いを説明する。統計的には日本では7人に1人が創価学会員である可能性を指摘した上で,創価学会誕生から歴史をたどり,この巨大宗教団体の「現在」にせまっていく。あくまでも客観的状況を分析するという立場に終始し,主観的な価値観にはよらないというスタンス。そして当初教育団体として設立されてから現在に至る歴史の中から今後を展望する。
 高度経済成長期と創価学会をリンクさせて分析し,農村から都市部にでてきた集団を信者に取り込むプロセス。そして仮説として,もし創価学会がそうした農村出身者をとりこまなかった場合には組合の加盟人数が増加していた可能性も示唆する。社会主義について,あるいは学生運動に対してこの宗教団体は傍観者に徹していたので保守主義者からも「容認」されるポジションを獲得するとともに,日本共産党との対立もある意味では必然だったことがわかる。
 ただし今後の展開についての著者の見方は厳しい。一つは在家仏教として,日蓮正宗とは別個の路線を歩むことと,カリスマ性のある指導者がいないとなかなか巨大組織を率いていくのは並大抵のことではないという見方だ。確かに,いまや「都会にでてきた農村出身者」という色分けではなく,職業も学歴もかなり多様化している上に,所得階層もかなりばらつきがでてきているはずだ。これを一つにまとめていくというのはリーダーシップが相当要求される。そして政党としての「公明党」と創価学会の関係も微妙な関係になってきている。ただ一つの宗教団体として分類するだけにとどまるには,あまりにも巨大すぎて日本社会に与える影響を無視できないというのが他の宗教団体と大きく違うところだ。PTAや商店街の自治会といったところを新しく掘り起こすといった活動もあるらしいが,拡大路線を歩みつつ,その拡大した先の「目標」というのは今後,外部の人間との広報や内部の人間を統制するリーダーによって大きく左右される可能性が示唆されている。新書サイズでこの濃密さは,やはり宗教学者としての島田裕己氏の力量を示す。不幸な「巻き込まれ方」で大学の教授職を追われた…という形になっているが,大学の予算や設備を利用して研究活動を進めることができていれば,よりダイナミックな研究成果も期待できたのかもしれない。ただ,新書サイズで島田氏の研究成果などを濃縮して知ることができるのはやはり嬉しい時代である。

2008年7月12日土曜日

入門原価計算第2版(中央経済社)

著者:清水孝/長谷川恵一/奥村雅史 出版社:中央経済社 発行年:2008年3月25日第2版20刷
評価;☆☆☆☆
 奥付をみると2004年に第2版が刊行されて、今年で20刷。入門書として定着した人気を得ている本といえそうだ。そもそも大規模店ではなくわりと中小規模のお店でも原価計算関係の本としてこの本が棚に並んでいるところからして、原価計算に興味をもつ社会人向けとしても需要が見込める本になってきたのだろう。著者はいずれも早稲田大学商学部の教授でもともとは学部の授業用のテキストとして編集されたようだが、緻密でわかりやすい説明は社会人向けにも各種検定試験の副読本としても利用できる。原価計算の意義・目的→原価の分類→原価計算の手続きと進む流れもわかりやすい。ただし個別の費用項目に入る前に個別原価計算の説明が入ったり、材料費でいきなり材料副費の予定配賦の問題が出てきたりと、やはり入門書として個性のある配列となっている。個別原価計算と総合原価計算の基本的なところをおさえてから、費目別原価計算の細かい論点を学習していこうという趣旨のようだが、これはこれで独特の教育方針がみえて面白い。やや直接原価計算の部分は最後の章で「上級原価計算」の橋わたし的な内容で終了しているが、日本商工会議所の簿記検定2級の対策資料としても十分使える内容。略式の勘定図などは下書用紙にも使えるので受験生にとっても便利だろう。2,800円だが、価格以上の「ベネフィット」は十分。

2008年7月8日火曜日

美容院と1,000円カットでは,どちらが儲かるか?(ダイヤモンド社)

著者:林總 出版社:ダイヤモンド社 発行年:2008年
評価:☆☆☆
 管理会計入門を物語で紹介。ただしレベルは非常に高く,まず既存の管理会計(製造間接被の配賦計算など)を理解していないと途中で何が間違っていて何があるべき姿なのかがわからなくなる可能性も。ERPパッケージという会計情報システムも目的意識をしっかりもたないと役に立たないということを丁寧に説明している。コストをかければいい製品ができるという神話をくつがえすとともに,ビジネスプロセスをしっかり会社側で把握することが大事という原理を丁寧に解説。また売上高だけで営業のインデックスにすると,売上高のために販売促進費が増大したり,値引き合戦が始まるという欠点も指摘されている。このあたりは営業関係の仕事についている人にも耳が痛い話が続くのではないだろうか。そのための解決策として限界利益や貢献利益など,直接原価計算の手法や責任会計,予算制度といった話につながっていく。確かに一定の手間がかかるが,ある程度自由なビジネス活動を保持しつつ責任とモチベーションを維持するためには,責任会計や予算制度は重要なツールになるだろう。テーマは「美容院と1,000円カット」となっているが,実際には衣類品メーカーがいかにしてERPパッケージを活用していくか(またその導入にあたってのアドオンにも注意が必要なことなど)のケーススタディとなっている。ハイレベルでなおかつ面白い内容の書籍。

2008年7月7日月曜日

代行返上(小学館文庫)

著者名:幸田真音 出版社:小学館 発行年度:2005年
評価☆☆☆
 年金問題の予兆をすでに2005年段階でこの本は予言している。厚生年金基金の解散が一時集中した時期があったが,社会保険庁の記録と厚生年金基金の記録が食い違ったり,ひどい場合には被保険者の性別までもがいい加減に入力されていて,年金担当者が憤懣やるかたなく「間違っているのは国のほうなのに,間違っている記録にあわせないと許可がおりない…」と嘆くシーンが描写されている。
 遠い先の話であるためにどうしても年金問題については「面倒だ」と思いがちだが,この本では会話の端々に「PBOとは…年金の仕組みとは…」と解説が入っているので,一種の入門書としても使える。エンターテイメントとしても面白いので経済小説のファンのみならず,エンターテイメントのファンの方にもお勧めだ。年金の構図は俗に2段階,3段階とされているが,この小説で重視しているのはとくに3段階構成となる企業年金の話。退職一時金などの変わりに企業年金を支給しようとする場合には,国の厚生年金に加えて企業年金の運用・管理をする厚生年金基金という団体を設立。この厚生年金基金という団体が企業年金の管理をするとともに,2階建て部分の厚生年金の一部も国に代わって管理して給付まで行う。この2階建て部分の本来国がやるべき業務を厚生年金基金が「代行」することを代行業務という。ただし,退職給付会計が導入されると,積み立て不足は退職給付債務として(実際には退職給付引当金として)貸借対照表に計上しなければならない。もともと退職給付会計はかなり不安定なものだから,リスク(変動)をきらう会社としては代行部分も含めて国に返上し,厚生年金基金そのものも解散することが多くなった。代行業務を返上する場合には,株式を売却して現金納付が原則となる(物納もありうるが)。そうした場合株式市場に売りが多くなり日本の株価が下がる…それははたして国益にかなうことなのか…といった問題提起がこの本でなされている。年金記録の加入記録が手作業入力でデータの信頼性にかなり疑問があることも2005年文庫本ですでに指摘されている,他。確定拠出年金(ポータブルで運用は社員そのものが行う年金)も運用がうまくいかず社員にとってはマイナスが多いということも指摘されている。年金の「今」は社会保険庁が解体されて,民間組織に準じた組織に移行することになっているが,根本的な解決策はいまだ見えておらず,この本で指摘された内容は2008年現在もなお未解決のままだ。日経平均株価の動きなど経済情勢は必ずしも予測どおりには動いていないが,そうした架空の状況設定以上に「年金はだれのためにあるのか」という筆者の問題提起と豊富な金融知識が紹介される本書は今あらためて再評価されるべき経済小説だろう。