2013年2月25日月曜日

隠されたヨーロッパの血の歴史(KKベストセラーズ)

著者:副島隆彦 出版社:KKベストセラーズ 発行年:2012年 本体価格:1600円
 ルネサンスをローマ・カソリック協会とニュープラトニズムに代表される人文学者たちの戦いと位置づけ、地理的には15世紀のフィレンツェと神聖ローマ帝国時代のウィーンに置けと著者は説く。非常に面白い。だいたい通説ではルネサンスは300年ぐらい続いた一連の活動ということになるが著者は15世紀フィレンツェのだいたい60年ぐらいがルネサンスで後期の北方ルネサンスと15世紀ルネサンスとは別物ととく(あるいは分類を分けるべきだ、とも)。独特の語り口調が師匠筋の小室直樹氏を彷彿とさせる。やや脱線気味なのと、同じ話が繰り返されるのも師匠伝来か。塩野七生さんなどへの批判も展開されているが、ちゃんとそれなりに業績を残している人に対して「ニュープラトニズム云々…」と自説にあわない一点で批判を展開するのは、どうにも苦手。説教口調の文章は、なんだかエリート臭さも感じて読みづらいが、そうした一面を除けば、アウグスティヌスの父親がゾロアスター教の影響を受けていたなどけっこう面白い豆知識が身につく。ヴァチカンへの批判は多々あれど、ルネサンスにからめた批判は面白い。写真や図版が多いのも好印象だが、参考文献が日本語文献ばかりなのと索引がないというのが、内容の信頼性に疑問符をつける。

2013年2月24日日曜日

スティグリッツの経済学(東洋経済新報社)

著者:藪下史郎 出版社:東洋経済新報社 発行年:2013年 本体価格:1800円
 「ビューティフル・マインド」という映画の中で、とびきりのブロンド美人とその友達4人がバーに入ってくる場面がある。アダム・スミスの自由放任もしくは市場原理にまかせておくとバーにいる男子大学生4人は全員ブロンド美人にアタックし、その結果ほかの4人は帰ってしまうということになる。そこでゲーム理論を考案したナッシュはふと気がつく。ここで戦略的に行動し、男子学生4人はそれぞれほかの4人の女性にダンスを申し込めば女子大生グループは帰らずに全員の利害が一致するのではないか、と。
 映画の話はゲーム理論だが、この本でもアダム・スミスの市場原理をひとつのモデルとして扱いつつ、現実には情報の非対称性があるために完全市場の利点は現実にはいかされず、特に開発途上国においては公正なシステムを構築することが何よりも重要だ、というスティグリッツの理論が紹介されていく。
 20年前のミクロ経済学ではまだ情報の非対称性について取り扱っているテキストは少数派もしくは応用的な論点としての位置づけだった。現在では情報の非対称性やゲーム理論は入門書の段階でほとんとの経済学のテキストに著述されている。その業績の多くにスティグリッツの手になるものがあり、この本ではスティグリッツの生い立ちなども含めて「入門の入門」として、現在の経済学に興味が持てるように配慮されている。ただし内容的にはある程度昔でいうミクロ経済学で生産者余剰や消費者余剰、ISーLM分析などを学習してきた中級者向けとなるだろうか。けっして易しい論点ばかりが扱われているわけではない。なんとなく読者層としては、昔近代経済学を学習してしばらく遠ざかっていたが、もう一度経済学を復習してみようかな、という中年読者層がターゲットにおかれているように思う。

2013年2月18日月曜日

イノベーション・オブ・ライフ(翔泳社)

著者:クレイトン.M.クリステンセン ジェームズ・アルワース カレン・ディロン 出版社:翔泳社 発行年:2012年 本体価格:1800円
 破壊的イノベーションの理論で知られるクリステンセン教授がハーバード・ビジネス・スクールの卒業生にあてた講演を1冊の本にまとめたもの。経営学を教えてきた教授が「人生」についてその理論を応用するという形をとっている。クリステンセン教授の著書はこれまでも読んできたが、敬虔なキリスト教徒であり、さらに昔韓国にも布教にいかれていたことなどは知らなかった。ハーバード卒業後に離婚や犯罪に手をそめる卒業生をみ、どうしてそうなったのかその因果律を明らかにしていく。
 じっくり語りかけてくる内容を読みながら、けっして結論を述べずに学生に「考えさせる」(単に考えさせるだけでなく確固たる理論と知識をベースにして考えさせる)展開は、確かに丸暗記の授業よりも応用力が身につく。そして「偶然」という要因が人生に与える影響についても。
 偶然と必然というのが昔の自分には理解できない面があったのだが、最初は「偶然」、そしてそのあとは確固たる目的と目的にいたるプロセスの積み重ねで必然になっていくということが…なんだか最近になって「体感」できてきたような気がする。この本を手にとったのも偶然だが、読み終えてその内容を今の自分に適用していくのは「必然」(この本では意図的戦略)ということになる。
 メインテーマからはずれるエピソードだが、アメリカのブロックバスター社がネットフリックス社に敗れて破産するまでのプロセスの分析が興味深かった。固定資産を抱える企業にとっては新規事業は限界費用が高く限界収入はさほど高くない。そこで新規事業よりも既存事業の活用(固定資産の活用)という経営的な意思決定をおこなう。だが新規事業に乗り出した企業にとっては、固定資産も既存事業もないのだから新しい市場にどんどん乗り込んでいってシェアを拡大していく…。これ、有店舗小売商の、たとえばダイエーなどがネット販売に乗り出さなかった経緯を連想させる。巨大資本も人員も十分にあるダイエーがネット通販に乗り出すことは1990年代には可能だったはずだ。だが多数の有店舗と社員を抱えるがゆえに、その重要性を相対的に低下させるネット事業には積極的には乗り出せなかった‥。そしてその間に楽天がシェアを拡大していく、といった構図だ。出版社などもこのアナロジーで同じことがいえるのかもしれない。








2013年2月14日木曜日

実践ボトムアップ・マーケティング戦略(日本能率協会マネジメントセンター)

著者:アル・ライズ ジャック・トラウト 出版社:日本能率協会マネジメントセンター 発行年:2011年 本体価格:1800円
 「理論がさきか、実践が先か」というと、昔は「考えてから動いたほうが合理的じゃん」と考えていたが、最近では「動かなければわからないこともけっこう多い」と考えるようになってきた。この本では理論だけではなく、実際のものづくりや販売現場から生み出されてきた工夫や理論がそのままマーケティング戦略として成功した事例を取り扱っている。
 けっこう現場から理屈を立ち上げていくことの重要性以外に「ネーミングでは妥協してはならない」などといった「理屈」も最後には登場してくるのが興味深い。まあ意外に現場叩き上げの人ほど頑固で柔軟な対応性に欠けるといった側面もあるので、やはり理論と実践の中庸のバランスが一番大事なのかな、とも思う。また販売現場で手応えのある商品(書籍)はやはり数字でも動きが極めて良いことが多く、その逆はあまりないから、実践も理屈も目指すところはそれほど変わらないのだろう。戦略を実施したり組織を統括したりといったスキル面が書籍の後半を彩るがこれが面白い。計画はボトムアップで実行はトップダウンでという理屈の使い分けがまた叩き上げのマーケターである著者の面目躍如たるところか。