2010年1月25日月曜日

新版 民主党の研究(平凡社)

著者:塩田潮 出版社:平凡社 発行年:2009年 本体価格:780円 評価:☆☆☆☆☆
 力作だ。民主党が結党されたのが1996年9月、そして西松建設事件で小沢一郎氏の秘書が逮捕されたのが2009年3月。この約15年間をこの新書はまとめてレポートし、自由民主党、民主党およびそのほかの政党関係者から取材するとともに、今後の「流れ」も予測できるようになっている。この新書が印刷されたころには、まさか陸山会の元会計担当者の国会議員が逮捕されるなどとは予想もつかなかったはずだが、小沢一郎氏の政治手法の過去をさぐり、さらにその小沢氏と一蓮托生の運命を選んだ鳩山首相や管財務大臣にはそれなりに過去に共有してきた歴史があることがわかる。政治理念は異なる三人だが、自由民主党とは異なる現代史をそれぞれが抱え込んでいるのだろう。
 民主党関係者からの取材が当然一番多く、中立的な著述がなされながらも「やや」民主党に甘く感じられるのは取材源の多さからしてやむをえないのかもしれない。数々のスキャンダルにみまわれながらも政権交代が起こったのは、小泉総理大臣が就任する2001年前からの既定路線だったような気がする。

政党としての基本理念がなかなか見えにくい民主党だが「地方分権」という方向性はどうも共通しているようだ。歳出の効率的配分というテーゼもそこから見えてくる。一方、自由民主党は構造改革路線が2010年初頭の現在では色あせていることもあり、基本理念で対抗できないのが難しい点か。また政策理念に強い若手がまだ十分に育っていないのも頭が痛い。たとえば民主党には前原国土交通大臣が次世代のリーダー候補として圧倒的な存在感をみせるが、自由民主党にはそれに相当する政治家が現段階ではまだ育っていないというのが難点だ。健全は保守系2大政党政治というからには自由民主党がこのまま衰退していくのも良くないことだろう。だが、この新書ほどドラマチックな15年を自由民主党はおくっておらず、小泉元首相の「個性」だけで生き延びてきたというのが対照的かもしれない。検察庁が小沢一郎氏に事情聴取をかけた今だからこそあらためて読み直してみたい一冊だ。

一回のお客を一生の顧客にする法(ダイヤモンド社)

著者:カール・スウェイ/ポール・ブラウン 出版社:ダイヤモンド社 発行年:1991年 本体価格:1600円 評価:☆☆☆☆☆
 顧客満足をここまで追求すると一回限りの消費ではなく反復した消費を自店で取り込むことができるという事例。リピータをいかに取り込むか、ロックインするかというのは小売商の永遠の課題かもしれないが、単なるポイントカードだけではなく、顧客の不満足を徹底的に洗い出して、さらに従業員を大事にして消費者を大事にするというシステムを作り出すことで究極の販売システムを作り上げた事例を取り上げる。
 けっしてコスト感覚がないわけではなく、将来の消費や反復した購入を想定すれば、確かに無料でサービスをすることの見返りは大きい。さらに競合他社のサービスも貪欲に取り込んでいけば、確かに競争相手よりも顧客満足を高めることができる。
 顧客満足、顧客満足と繰り返しあちこちでいわれてはいるものの、要はクレームを謙虚に受け止めてそのクレームを前向きにひとつひとつ解決していく社内のシステム作りなのだとこの本に教わる。販売の名著、古典といわれる理由もよくわかるすばらしい本。

ガール(講談社)

著者:奥田英朗 出版社:講談社 発行年:2009年 本体価格:552円
評価:☆☆☆☆☆
 男性と女性とでは時間の流れ方が違う。そんなことを感じ始めたのはもう中学生のころだったか…。この本では30代前半~中盤の女性が主人公になっているのだが、「ううむ、こんなことを考えているのか…」としばしショックを受けるような描写が。いや「ガール」から「大人」への切り替え時期が最近難しくなってきたとは思っていたが、実際にはそれはマンションの購入だったり新人の研修だったりするわけで、それは男性とはまた違う時の経過だ。20代後半と30代前半とで男性の場合にはさほど大きな違いがあるわけではないが、女性の場合には合コンに誘われる回数や得意先からもらうコスメの数などでだいぶ違ってくるものらしい、いや違うのだろう。
 22歳と34歳のOLがつばぜりあいをみせる「ガール」が一番すさまじいが、それ以外にも「ひと回り」と題する短編で「奥田ぶし」が炸裂。ここまで残虐に心理描写していいものかどうかわからないが、少なくともこの本の主人公は30代の女性で、そうした機微にはまったく気がつかないのが「おっさん」という人種という位置づけ。ああ、そういやこの手の小説で「おっさん」というのが一番どうでもいいポジショニングではあったのだな、昔も今も…

ひと月百冊読み、三百枚書く私の方法(PHP研究所)

著者:福田和也 出版社:PHP研究所 発行年:2001年 本体価格:1250円
 これまで「積読」状態だった本のひとつ。ちょっとしたきっかけで読み始めたが、案外面白い。本の目的を明確化するとか、文章の書き手の意識を探るために実際に抜書きをしてみるとかそうした方法が紹介されているが、つまるところ「自分自身のスタイル」を構築する…ということに尽きるようだ。一冊のノートにすべてをまとめるということにもこだわりがあるらしいが、そのこだわりもよくわかる。あれこれ試行錯誤しているうちに、やっぱり自分で自然に編み出していた方法が一番良かったんだな、とか実感するのもこうした本の読後感か。ジャンルの幅を効率的に広めるためにガイドを一人決めてそのガイドのすすめで読書のラインナップを拡充していくという方法にも納得。あちこちの書評を拾い読みしていると体系化が難しくなってくるので…。ちょっとした知的思考方法のガイドブックという感じで、ウェブにはあまり頼りたくない人にはさらにいろいろなノウハウが吸収できる本だと思う。

意外と知らない「社名」の話(祥伝社)

著者:瀬戸環 出版社:祥伝社 発行年:2009年 本体価格:760円 評価:☆☆☆☆
 えっと思う社名のエピソードが満載。三菱鉛筆は三菱財閥とは関係なかった…(ただし仲は悪くない)とかいう話も初めてこの本で知った。第一国立銀行から現在に至るまでの銀行の名称の変遷(図版入り)もわかりやすくて面白い。「鉄」についても「金を失う」という意味を嫌って「矢」をあえて使う企業もあるという話も興味深かった。資本関係も人間交流も一切ないが、仲が悪いわけでなく共存している日清食品と日清製粉とか、日本企業らしい「まあまあ、競合しなければそれでいいじゃない」という持ちつ持たれつの関係が、垣間見えるが、それってけっこう心がなごむ。別の企業ではあるけれど理念には共通するものがあるので…ということではないかと思う。丸紅と伊藤忠の創業者が同じというのもこの本で初めて知った…。ちょっとした昼休みの雑談などに使えるネタがけっこう多いのでスキマ時間に読書してみるのがお勧め。

争わない生き方(新講社)

著者:和田秀樹 出版社:新講社 発行年:2010年 本体価格:1300円
評価:☆☆☆☆☆
 和田秀樹氏の最新刊。すべての作業や課題は着手するまでは大きくみえるが実際にやってみるとそうでもない、という和田氏の独特の「まずとりあえず始めてみること」や「静かな勝ちかた」といった文章が心にやさしい。勝ち負けの単独の判断基準だとこの世の中は息苦しいが、多様な価値観があれば多様な生き方がでてくる。争うことなく静かに物事が進めばそれにこしたことはないのだ。
 こうしてみると自分自身のまず「性格」があって、その上に「読みたくなる本」「読みやすい本」があるのだと思う。効率至上主義の人がこの本を読んでもそれほど感心することはないとは思うが、静かに物事を進めたい人には非常に勉強になる本だ。ビジネス書籍や生き方の本も読む人の立場や性格で読み分けていくものだと思う。もちろん外資系バリバリの人がこういう本を読んでもいいだろうし、私がカツマーのような本を読んでもいいわけだが、やはりどことなく違和感を感じることは感じる。文学や経済学など学問の世界では異質なものにふれることはいいことだが日常生活にからんでくる部分についてはむしろ読者の側で読者自身の特性を考えた自己啓発を考えていくのが筋だろう。物静かに争いごとを好まない人にとっては、非常にためになる本だ。

御社の営業がダメな理由(新潮社)

著者:藤本篤志 出版社:新潮社 発行年:2006年 本体価格:680円
 タイトルだけみて気になっていたものの、ついに3年間読まずにいた本を読破。確率論的営業ということで要は営業ターゲットをいかにたくさん回れるかがポイントで、さらにそこに営業能力や全体的な流れを読み解くグランドデザイン能力が必要…というもの。営業日報についてはあまり皇帝的な見方をしていない本だが…。営業が営業として成立する理由ってまだまだ不可解な部分が多い。「これ」という科学的要素の決め方がなかなかないのだが、もしあるとするならば、「営業に向いている」というアナログ的な印象でしかない。気合だけでもだめだし、人柄だけでもダメ。営業能力って一種の情報産業かもしれないが、それを営業能力とよぶならば、質の高い情報をたくさんもって量をこなすのが一番…ということにもなりかねないが…。
 もちろん営業をかけても無駄な営業先というのもあるわけでそれを見抜く力も必要になるのかもしれない。難しいところだなあ…。

7割は課長にさえなれません(PHP研究所)

著者:城繁幸 出版社:PHP研究所 発行年:2010年 本体価格:700円
 痛快な内容。具体的な政党名や団体名もあげられているが日本共産党と経団連の主張が良く似ていること(正社員の権利を保護)や、その一方で非正規社員については雇用調整の対象となること、そして企業の内部留保や雇用調整といった手段は必要不可欠であることなどをビシビシ指摘。特に旧日本社会党については連合のロビー団体として既得権益の保護にはしったと手厳しい。企業の内部留保を取り崩して人件費にあてるという考え方も確かにないわけではないが、その場合には新規の設備投資ができなくなるため遠からず会社は倒産することになる。組合活動のビラを読んでもいまひとつ全面的に共感できないのは既得権益は保護しつつ、さらに新たな権益も「闘争」で勝ち取るというかなり、虫のいい話ばかりが書いてあるからかもしれない。既得権益については企業も組合側も譲歩して、若い世代に譲るという調子であれば問題はないと思われるが…。で、つねづね個人的にも考えていたのと同じことを著者は指摘していたが派遣雇用への規制強化は、企業の派遣切りを加速化させるだけで、失業率そのものは逆にあがっていくであろうということ。現在の制度のもとでは、規制が厳しくなればなるほど雇用のリスクが企業にとっては高くなるため、民主党が最低賃金法やら規制強化やらを進めれば進めるほど雇用調整が必要な企業は身軽な会社にしてしまう。その結果、リストラをしてかえって人手不足になるという会社が続出していくだろう。この新書、身近な問題から遠くの(10年後の?)問題まで説得力をもって「予測」というよりも「実現する未来」を簡潔に述べてくれている。面白いし、わかりやすい。

2010年1月24日日曜日

美容院と1,000円カットでは、そちらが儲かるか(ダイヤモンド社)

著者:林 聰 出版社:ダイヤモンド社 発行年;2008年 本体価格:1500円
 会計本が売れる…というちょっとしたブームもだんだん落ち着いてきた状況の中で、やはり安定した内容と評判を維持しているのはこの林氏の一連の書籍。会計というよりも原価管理に重点を置いた書籍が多いが、ERPシステムを導入してもBPRや要求定義がしっかりしていないとソフトウェア単体だけでは原価管理の効果が薄いこと、そして製造間接費をなるべく企業の活動別に配付していかないと、正しい原価管理ができなくなることなどを小説スタイルでわかりやすく説明してくれている。ただ内容的には標準原価計算や直接原価計算についてはある程度理解している読者のほうが、もっとストーリーを面白く楽しめるだろう。伝統的な原価計算基準にもとづいた原価管理では限界があって、それを乗り越えるのが活動基準原価計算だ…といった流れがこの本の大きな流れとなる。データをただ単に加算していくだけではだめで、どうやって配賦するのが一番経営目的にかなっているのか、そんな視点で読み解くとこの本の奥深さがさらに面白く読めてくるのだと思う。

無痛(幻冬舎)

著者:久坂部羊 出版社:幻冬舎 発行年:2009年 本体価格:838円
 神戸で発生した一家惨殺殺人事件。とある一家惨殺事件を連想させる事件現場の描写が続くが、その謎解きに挑むのが外見から健康状態を見抜く名医為頼英介。そして臨床心理士の家族とその前の夫、そして自己処罰型の中学2年生の少女。刑法39条をめぐる連続殺人事件が最後の「一点」に焦点があってくる…。
 「痛み」は身体的な痛みと精神的な痛みの両方を含んでいる。冒頭の事件からラストまで一気に読み通してしまう面白さ。いや、もちろんよくありがちな過去に傷を持つ天才肌の名医が「探偵」として登場してくるのはこの手のサスペンスの定番だからそのワンパターンさは責められない。実際、こうした「痛み」がテーマの推理小説では「探偵」をどのキャラクターが演じるか、というのは大事な要素でもある。謎解きというよりも刑法39条をめぐる警官、医者、被害者、犯人の複雑な人間模様のミステリーといった感じか。
  

2010年1月21日木曜日

10分刻み超勉強法(マガジンハウス)

著者:中島孝志 出版社:マガジンハウス 発行年:2009年 本体価格:800円
 「10分間」を最も集中できる時間と位置づけその活用方法を探る。実際には「10分間」というと単純記憶か復習ぐらいにしか役に立たないといった印象が強いが、著者はエピソードによる記憶やそのほかのジャンルにまで「10分間」を活用していこうという姿勢をみせる。資料の整理方法のところでは使わない資料はゴミなので捨てるか整理するかといった思い切りのいい手法を提案するが、確かに使わない、読まない資料をずっと保管しておくのは時間とスペースの無駄ではある。スキルアップやバージョンアップが最終目的の内容だが、小刻みにあく空白時間をいかに有用に活用するべきかといった考え方からすると目についた手法で自分にあった内容を日常生活に取り込めるものは取り込んでいくといった態度が一番いい内容なのかも。約240ページの内容で800円なので、1ページあたりの単価は約3円。安いか高いかは読者のそれぞれの状況による。

2010年1月19日火曜日

ジャンボ機長の状況判断術(PHP新書)

著者:坂井優基 出版社:PHP研究所 発行年:2009年 本体価格:720円
評価:☆☆☆☆
 「誤りやおかしいところがあるという前提」でコンピュータの画面をみるという姿勢。ひとつでもミスがあると人命にかかわる職業が飛行機のパイロットだが、リスク防止、ミス防止、そして過度に楽観的なものの見方やコミュニケーション不全が大きな事故をまねく可能性を細かく紹介してくれる。これってパイロットでなくても書類に不備があった場合にミスが問われる一般の職業でも普遍的に問われる資質ではないかと思う。クリエイティビティも地道な書類作りやプレゼンテーションなどから生まれ出てくるもの。きっちりした書類や数字による裏づけもなしに新規プロジェクトは進行しないし、ましてやチームプレイであれば、それぞれのメンバーのコミュニケーションがきっちりしていなければ、とんでもない事故を招くことにもなりかねない。
 この本はミス(書類の誤字・誤植など)を防止するためのチェックリストとしても使える。実践的だし、飛行機以外のジャンルにも応用や移植がきく内容構成だ。

2010年1月17日日曜日

創価学会の研究(講談社現代新書)

著者:玉野和志 出版社:講談社 発行年:2008年 本体価格:720円 
 「批判」でもなく「賞賛」でもないというこの本、社会学的な見地からアプローチして、高度経済成長期に飛躍的に信者を増やし、また現在にいたるまでに種々の方向修正を加えてきた教団および政党を含めた関連組織に言及する。この本を読むまでしらなかったのだが、地域の行事であるお神輿かつぎやお祭りにも参加が制限されている時代がつい最近まであったらしい。ただ地域活動の一環としてなら、別に「教義」にも触れないという解釈となり現在に至るとか。地域活動にはむしろかなり積極的に参加しているのかと思っていたが、実際には地域コミュニティに溶け込もうとしてきたのはつい最近とのこと(それまでせめてPTAぐらいしか参加できなかったようだ)。日本共産党との支持者の取り合い、そして自由民主党の支持者と公明党の支持者の微妙な「時代性」のずれと重なり合い。それが自公連立政権で象徴的に現れていた、という著者の指摘は興味深い。同じ商工業者でも一部は日本共産党支持者だが、だいたい都市部はこれまで自由民主党か公明党のいずれかの支持者で、どちらかといえば小規模零細企業に公明党の支持者が多かった印象がある。ただそれも所得水準の向上と地域コミュニティの活性化という目的のもとに微妙に重複してきたとなると、今後さらに劇的な支持者の増加というのは見込めないだろう。そこで…というその「…」のくだりはこの本の中で「再生産」という言葉で説明されている。
 微妙にマルクス主義的な分析と社会構造をタテにみたてているところなどが気になる。また文章のイキがかなり長いのも読みにくい。賞賛でもなく批判でもない、というわりには、わりと「批判」の部分が少ない分だけ、どうなのかな、という気もするが、2008年当時の日本の社会を切り取った新書ということで、記憶にとどめておくべき内容かもしれない。

あなたがお金で損をする本当の理由(日本経済出版社)

著者:長瀬勝彦 出版社:日本経済出版社 発行年:2010年 本体価格:667円
 ちょっと最近増えてきた行動経済学関連の経済書籍。対話があってそのあと解説にはいるという形式。人の経済行動は枠組みによって支配されるというフレーミングの説明から入り、基準(アンカー)、授かり効果、ヒューリスティック、確証バイアスなど重要用語が平易に説明され、巻末には読書リストもついているお徳用。説明はわりとばさっと言い切る形で、ミクロ経済学が嫌いという読者にもとっつきやすい内容になっており、ましてや数式などはでてこない。文庫本で気軽に読んで、さらに興味がわいてくれば、参考文献を読み進んでいくという読み方がいいだろう。またミニマックス・リグレット効果(後悔するかもしれないときに最低限の後悔の度合いを決めておく)といった内容は日常生活でもけっこう使える内容ではないかと思う。

2010年1月16日土曜日

売れるもマーケ当たるもマーケ マーケティング22の法則(東急エージェンシー)

著者:アル・ライズ/ジャック・トラウト 出版社:東急エージェンシー 発行年:1994年 本体価格:1456円 評価:☆☆☆☆☆
 マーケティングというとフィリップ・コトラーが定番だが、いかんせんコトラーの本は読み通しても「わかったような気持ちになるがいまひとつ現場では使いにくい」という「個人的」な印象が。ひるがえってこの本は1994年に日本で発行されて、2009年12月25日の印刷でなんと15年間に22刷。実務を中心に根強い人気があるのは確実な本でさすがマーケティングの本。表紙は緑でさらに「22」という数字でマーケティングの原理をまとめあげ、書店でも手にとりやすい。しかも奥付で22刷となれば置いていない大型書店のほうがリサーチが足らないということにもなる。マーケティングとは知覚の問題だ、といきなり喝破し、その後具体的な項目に移っていくが、文字が大きく読みやすい上、すぐにも現場で使える法則がまとめて掲載されている。もちろん読者によっては「DECの例とか持ち出されても…」という戸惑いはあるが、1994年以後に実際に起こった企業の市場シェアの動向をみるとかなりの確率でこの本の内容は的を射ていることがわかる。歴史がさらにその前の歴史の正当性を証明したという形。ビジネス書籍でこれだけの「法則の的中率」を誇る例は少ないのではないか。個人的には「梯子の法則」にかなり共感。

こんな男は捨てられる(ソフトバンククリエイティブ)

著者:山崎世美子 出版社:ソフトバンククリエイティブ 発行年:2009年 本体価格:760円 評価:☆☆☆☆
 ありゃ。痛いところをズバズバついてくる新書。ソフトバンクグループのイメージとはちょっと感じが違う内容だが、考えてみればこれもリアルな情報源。元探偵というだけあって具体的な事例も豊富(?)に掲載。「男は浮気もして結婚生活も維持しよう」とするから、トラブルを招くことが多いという説明にも納得。自然体で過去にとらわれることなく生活するという主張が見え隠れする著者の説得力にもうなづけるものがある。理屈をこねる男がきらわれるとすると、まあ私も嫌われるタイプなんだろうな、という自覚もめばえ…。ただ繰り返し読んでいると自分も自然体からかけ離れていく可能性があるので、男性が読むよりも女性が読んだほうが、長期的にはいいのかもしれない。

 「キャバクラにはまる男」(173ページ)には個人的にかなり納得。実際に理由は同性としてもわからないが1ヶ月の給料の大半を何某というお店に注ぎ込み、本命の彼女にも愛想をつかされ、それでもなおキャバクラに通っていた知り合いがいたが、はたして今でも元気なんだろうか…。同性はもちろん、異性からも冷静に観察されているとこの本で知ったら、「熱病」を取り除く最高の治療薬にもなるかもしれないが…。

2010年1月11日月曜日

日本辺境論(新潮社)

著者:内田樹 出版社:新潮社 発行年:2009年 本体価格:740円 評価:☆☆☆☆☆
 地理的・文化的に中国が中華思想で日本はその「周辺」に生きてきた(この場合、日本という主語でいいのかどうかも実は問題になるのだが)。その辺境という立場でどういう文化や政治構造が作り上げられ、また「日本」に住む人間がいかにそれをたくみに利用し、改変していったのかを分析。ホンネとタテマエなど二重構図は今でもあちこちに散見することができるが、そうした文化や自己内部での二重構造を解き明かしてくれる。「まえがき」では「これまでも先輩たちが研究してきた結果をなぞってきただけで…」といいながら、「あとがき」では「これこれについてさらに具体的な研究を…」というホンネが見え隠れするのは、著者と編集者による意図的な「二重構造」の創出だろう。
 第二次世界大戦後の東京裁判の分析においても、ルース・ベネディクトの分析においてもこの二重構造が明白にされていく(いい悪いといった価値判断はもちろん研究者として避けているのは当然として)。で、書籍の中身もそうした研究結果を見事に反映し、単行本でもなく文庫本でもなく新書という形で、しかも著者自身が「あいまい」とする定義にそった形での刊行。ここまでしくんで新書を発刊するあたりがやはり心憎い。「目的地」や「下絵」「リスト」といった概念を意識のなかからとばして日本文化論にするのであればやはりこうした形での出版が一番「理想像」であり「道」にかなった方法なのだと読み終わって納得。

出社が楽しい経済学 DVDブック 第1巻(日経BP社)


著者:吉本 佳生 スーパー・エキセントリック・シアター 出版社:日経BP社 発行年:2009年 本体価格:2,400円
 2009年には第2シリーズをまとめた書籍も出版されているが、それはNHK出版のほう。こちらは第一シーズンの第1巻だが、よくもまあ、こんなにベタベタに経済学の用語を扱ったものだなあと思う。ただ実践力には富んでいて、意外にしられているようで知られていない機会費用、サンクコスト、比較優位などについてドラマとともに学習できる仕組みになっている。ジャック・ウェルチやコンコルドの事例など記憶に残りやすい配慮もされており、経済学って使えない…という誤った思い込みを正すのにもいい番組。「考え方」をいかに応用していくかは受け手の問題なので、こういう番組がもっと増えてもいいと思う。

2010年1月10日日曜日

どんな時代もサバイバルする人の「時間力」養成講座(株式会社ディスカバー・トゥエンティワン)

著者:小宮一慶 出版社:株式会社ディスカバー・トゥエンティワン 発行年:2009年 本体価格:1,000円 評価:☆☆☆☆
 新書にしては割高な感じのする1,000円。ただしそれもコンテンツと著者によっては購入価格帯となる。経営・ビジネス・会計関連の書籍としては小宮一慶氏の著作物はやはりはずすわけにはいかず購入。ネガティブな時間をポジティブに変えるというきわめて実践的な考え方が紹介されている。どうしてもスキマ時間をひねりだすとか、朝早起きをするとか超人的な技を求められることが多いビジネス関連の書籍。ただそれも、「やる気がある時間」かどうか、そしてやる気をだすためにはどうすればよいか。何のためにやる気を出すか。目標を設定する必要があるがあまりにも長期にわたる目標は避けたほうがよいので、短期目標だけでも立案すれば、かなり充実した時間がもてるようになる…。通常のビジネス書籍では長期目標を短期目標にきれいに分解していくのだが、ああしたピラミッド型のツリー構造というのはパソコンだとファイル格納には便利だが人間の頭脳は必ずしもピラミッド型には構築されていない。全体像をまず見渡すことができないのであれば目の前の短期目標から始めて長期目標に到達する方法だって当然あるわけだ。実践可能性がない理論よりも実践可能な内容が盛り込まれている点が小宮氏の著作物の魅力のひとつでもある。

「夜のオンナ」の経済白書(角川書店)

著者:門倉貴史 出版社:角川書店 発行年:2009年 本体価格:705円
評価:☆☆☆
 世界の夜ビジネスやアングラマネーについて経済の観点から分析した新書。前半は国際バージョン、後半は国内バージョンとなっているが、個人的には国際バージョンの前半のほうが興味深い。ユーラシア大陸の「国境」というのがまさしく人工的な架空の境界線で、アングラマネーや人身売買などが国境をかるがると超えていることがわかってくる。タイの夜のビジネスはベトナム戦争の遺産であることやミャンバーではサイクロンの季節になると夜の経済が活性化することなどが紹介されている。地図がそれぞれのページに記載されているともっとわかりやすくなっていたはずだが、具体的な地名が頻出する前半は世界地図を横において読み進めていくことをお勧め。お隣韓国の厳しい取締りなどが日本に与えている影響(2004年9月施行の韓国の法律)も微妙に伝わってくる。
 世界不況とともに微妙な影が「夜」の消費も抑制し、ブランド品など高級品の売り上げにも影響。それがまた昼間のビジネスの所得低下に影響していく…という夜と昼の関係もよく理解できる内容に。「経済白書」となっているし、著者も近代経済学の素養のある経済学者だと思うが、この本に関してはルポタージュ的な読み方をしていくと身近なところに思わぬ関連があることを再発見できると思う。

2010年1月7日木曜日

私はどうして販売外交に成功したか(ダイヤモンド社)

著者:フランク・ベドガー 出版社:ダイヤモンド社 発行年:1964年 本体価格:1165円
 営業の古典ともされているこの本は、フランクリン・ベンジャミンの哲学に影響を受けた一人の生命保険営業マンの人生でもある。経験をたくさん積み(できるだけたくさんの人と会い)、情熱を持ちつつ、アイデアを活用し、そして記録をまめにとる。この記録をまめにとるというのがとても大事なことではないかと思う。著者はカードにいろいろ書いて持ち歩くという手法で面会した人やある種の思想信条を叩き込んでいくのだが、確かにこうしたカード手法だと記憶に残りやすく、また非常時であっても応用がきくケースもあるのではないかと思う。また「沈黙」というフランクリン・ベンジャミンの哲学を営業技術に効果的に取り入れている点も興味深い。考えて経験して、その結果をさらに応用して記憶に定着させていく。簡単なようでいてけっこう根気強さが必要なことだが、そうした努力を地道に積み重ねていった結果がこうして発売から45年が経過しても現役のセールスパーソンに読み継がれている理由かもしれない。

2010年1月6日水曜日

無理(文藝春秋)

著者:奥田英朗 出版社:文藝春秋 発行年:2009年 本体価格:1,900円
 市町村合併をすませたばかりの架空の地方都市「ゆめの」。この新生地方都市を舞台にした「鬱屈した人間たち」のドラマが錯綜して最後にある「事故」で結実する。地方都市の問題点をこの作品に凝縮したという感がする。よくまあこれだけ性別や年齢の異なる人間の心情をリアルに描写したものだと思うくらい細かく描写してあり、ミステリーというよりも「人間喜劇」に近い内容。「無理」を全員が重ねていくのだが、根底に流れる「貧困」というテーマと「貧困の上のさまざまな不幸」がからみあい、悲劇なのに喜劇に近い終わりとなる。設定そのものが「無理」なのだがいかにもこういう地方都市がありそう…と思わせるのがこの奥田英朗の腕前だろう。生活のだらしなさや社会性のなさの描写もかなりえぐいのだが、実際、こういうえぐい生き方をしている人、現実にもいそうだしなあ…。新興宗教にはまるスーパーの保安員の女性の生き様が個人的には一番救いがなかったが、考えてみると登場人物のほとんど全員の「その後」ってかなりつらいものばかり。こういう救いのない小説、デフレ不況の今だからこそ、もっと売れるような気がする。

2010年1月4日月曜日

福祉を変える経営(日経BP出版センター)

著者:小倉昌男 出版社:日経BP出版センター 発行年:2003年 本体価格:1,300円 評価:☆☆☆☆☆☆☆☆☆
 名経営者の名経営者たるゆえんが明らかにされるこの1冊。親から譲り受けた運送会社を宅配便大手に育て上げ、そして福祉財団の設立へと方向を向けた小倉昌男氏の経営理念がページに凝縮されている。経営をけっして「悪」と決め付けるのではなく、福祉のあり方をかえて働く人に喜びを与えようとする小倉昌男氏の意欲や理念。小倉昌男氏のファンが物流業関係者のみならずさまざまな業種で多い理由もよくわかる。障害者の雇用促進やノーマライゼーションに経営の手法を用いて月給1万円という社会福祉法人のありかたを変えていこうという試み。そしてこの本書の中でも財務数値をディスクローズしていくという大胆さ。ヤマト運輸の労働組合もこの財団法人にカンパを寄せているというが、連帯する労働者という枠組みの中に障碍者が入っているケースのほうが少なかったのだから、このヤマト運輸労働組合の態度(自主的にカンパというのがすばらしい)も高い評価をくだすべきだろう。
 顧客満足(消費者のニーズを満たす)のために、いかなる付加価値をつけていくべきか、経費についてはどう考えるべきか、サービスが先で利益は後という考え方など、この本は実務に立脚した立派なマネジメントの本でもある。2009年の6刷目を三省堂で購入したが、これからもずっと多くの人に読んで欲しい名著。

早わかりIFRS(PHP研究所)

著者:グローバルタスクフォース 出版社:PHP研究所 発行年:2010年
本体価格:760円 評価:☆☆☆☆
 コンパクトにIFRSと日本の会計基準の比較対照がまとめられ、さらに業務フローに与える影響についても言及されている。制度が変化して実際に経理部や経営管理などにどのような影響がでてくるかが最大の関心事となるが、実務畑らしいシステムの構築などについての対策も丁寧に説明されている。ただし内容そのものはある程度日本の会計基準を理解していないと「早わかり」というわけにはいかないだろう。減損損失の戻しいれなどについても国際会計基準では戻しいれるが日本では切り下げたまま…というような会計処理は一定程度の仕訳処理が頭の中に入っていないといきなり読んでも何がなんだかわからない読者もでてくるだろう。会計基準がシンプルになる面がある一方でかなり複雑に見積もりをしなくてはならない面もでてくる(有形固定資産の減価償却など)。各国の税法の違いによって税効果会計についても国ごとに計上される金額の比率が異なってくるわけだし、IFRSが導入されてもさらに「新しい難しさ」がでてくる可能性が高い。実際には、おそらくダブルスタンダードで個別財務諸表については日本の会計基準、連結財務諸表については国際会計基準という使い分けとなる一方で、上場していない中小企業などほとんどすべての国内企業は国内基準で財務諸表を作成していくという構図になるのではないかと感じた。ポイントなどがコンパクトにまとめられ図版も丁寧に作成されており、一定の理解がある人にとっては面白く読める新書のはず。

2010年1月3日日曜日

いま20代女性はなぜ40代女性に惹かれるのか(講談社)

著者:大屋洋子 出版社:講談社 発行年:2009年 本体価格:838円
評価:☆
 この新書がかなり売れているらしい。なんとなくだが、40代の男性よりも40代女性のほうが購買層としては高いのではないだろうか。
「まさかウチのオッサンは会社で…」とかいろいろ妄想をかなでるタイトルだし、40代女性は「バブルなれ」していて尽くされるのには慣れているが尽くすタイプではないと本書ではばっさり。また20代男性も尽くしたり告白したりというタイプが多くはないため、40代女性と20代男性が惹かれあうケースは少ないとも。必ずしも不倫の話ばかりではないが、やはりでてくる不倫のケーススタディ。う~ん。やっぱりまずいと思うんだよね。惹かれあったり尊敬しあうことはあっても一線を超えるとひたすら「裏社会街道」へまっしぐらという…。で、結論としては両世代とも「壁」にぶつかりあい、しかも相互補完の関係にあるから惹かれあうということになるのだが、数値例が少ないのと、主観的な考えを補強するのが個別具体的な事例に限定されてしまっており、必ずしも読者を100パーセント納得させることはできないだろう。また同世代を見ても一つの世代を輪切りにして「ひとくくり」に分析してしまうことそのものが乱暴かもしれない。同じ20代、30代、40代でもそれぞれ個人差がある。バブルの時代に浮かれていた男もいただろうがそうでもない男も数多いし、「ゆとり教育」で個性を追求した女性も多いかもしれないが実際には塾や予備校などで既存の学習指導要領とさほど変わらない知識偏重の勉強と偏差値を基準にして主体的に(あるいは客観的に)進路や就職を決めていった女性も数多い。個性を追求するという目的は、逆に個性や目的を失わせる結果になってしまったのは残念だが、しかし育てた親はいずれも旧世代。子供の教育を学校まかせにしていない世代ほど、世代間の差異はほとんどないと考えることもできるだろう。時代の流れにゆさぶられるのはどちらかというと、「指導方針」に追従してしまった人たちだけで、時代や教育方針などにはあまり左右されていない個人も多数いる。
 もし自分なりにまとめるのであれば、「バブルに踊った40代男性」に「なぜ」ゆえに「ゆとり教育に追従した20代女性」が惹かれるのか、といった条件付になるだろう。ま、いずれにしてもレアケースではないかと思うのだが。

独断流「読書」必勝法(講談社)

著者:清水義範 西原理恵子 出版社:講談社 発行年:2009年 本体価格:629円
 岩波新書から出ていた「文学入門」の巻末に世界文学の名作リストが掲載されており、20代のころはそのリストにしたがってどんどこ読んでいた。すべてがすべて面白かったわけではないが、「読書には読むべき時期がある」という清水氏の指摘は正しい。だっていまさら「魔の山」とか最初から読むなんてことはとうていできず…。「坊ちゃん」「ロビンソン・クルーソー」「伊豆の踊り子」「ガリヴァー旅行記」「罪と罰」といったような作品について清水義範が文章、西原理恵子がイラストで「語る」。これがかなり面白い。プロの小説家がプロの作品を論じるわけだから、「ここはこういう説明が欲しかったがそれを無理やりこうやってもっていくあたりが…」という作り手からの視点が本当に面白い上、文章を読むのがあまり好きではないらしい西原理恵子がまたまた毒をあちこちではく。この組み合わせ、だれが最初に考えたのかわからないが、「毒」をもって「毒」を制するみたいなバランス感覚でちゃんと1冊の本として成立するあたりが構成の面白さ。編集者が考えたのかなあ。なかなかでてこない発想でアイデアが面白いうえ、さらにその上に読みやすい文章と毒のあるイラストのてんこ盛りだから、一種の「海産どんぶり」みたいな面白さがただよう。解説そのものが作品になってしまうというのがいいなあ…。

あ~ぁ、楽天イーグルス(角川書店)

著者:野村克也 出版社:角川書店 発行年:2009年 本体価格:705円
評価:☆☆☆☆
 野村克也氏の執念がにじみ出る一冊。昨年のクライマックス・シリーズでは日本ハムと決勝戦を戦ったが、最後の試合はシダックス時代の教え子武田が先発。さらにヤクルト時代の稲葉も日本ハムにいるという状況。素人目にみても、「あの楽天が」まさかの2位で、さらにまさかの解任だった。
「王や長島と違って…」という一種の僻みが野村克也氏のエネルギー源だが、この本でも巨人OBには複雑な思いがかいまみえる。
 野球をとことん考え抜いたひとつの結論として「監督をかえるだけでは勝てない」。裏方や編成部など球団全体がシステムとして機能していかないと勝てないというのがさらに明確に主張されている。さすがに次のプロ野球監督というのは考えにくいがこの本のラストで「高校野球の監督でも…」というのはかなり本音に近いだろう。規約によりあと5年は高校野球の監督もできないが、それでも80歳。どこかの高校でプロの卵を発掘して、プロ野球に送り込むといった技をこの野村氏は見せてくれそうな予感もある。楽天球団への恨みぶしばかりかと思いきや、これから育ち盛りの選手たちへの期待ものぞかせてくれる。プロセス重視主義の監督らしく一塁ゴロの打ち方に鉄平の成長をみるなど、ちょっとほかのプロ野球選手とは違う視点でプロセスを追求。野球論だけにとどまらず、個性豊かな人材をいかに活用していくかといった経営に通じる部分も多い。

「Sカーブ」が不確実性を克服する(東急エージェンシー)

著者:セオドア・モディス 出版社:東急エージェンシー 発行年:2000年
本体価格:1,700円 評価:☆☆☆
 「ビジネス」や「経営」をS字カーブで分析していくという本。製品ライフサイクルは経営関係の書籍にはどれにも載っているが、それを物理学の観点から企業や個人の資質にまで適用していこうという内容。かなり複雑であるはずの企業の「生命」をざっくりきりとってしまっているのだが、その単純さが逆に「真実」を描き出すのかもしれない。導入期・成長期・成熟期・衰退期をそれぞれ春・夏・秋・冬といった季節性になぞらえ、官僚主義ですら夏や冬には好ましい組織体制として位置づけられる(特に夏はなにもしないでも売り上げが伸びていく時期なので組織としては内部統制そのほかの官僚制を整備する時期ということになる)。冬の時期には利益率が落ち込むがその分アイデアを生み出すのには適してると説明される。士気は低下するが創造性や革新性が必要とされる。これを個人の人生になぞらえると、おそらく自分は「秋」の時期(成熟期)。ライフサイクルでいえば製品交替の時期で、ベンチマーク、基本回帰、プロセスの革新、モデルチェンジという時期。春にまいた種を収穫する時期といえば聞こえはいいが、本書70ページでは「望まないものに悲劇的にはまりこむ」時期ということになる。悪化した状況を改善していくには、「なにを」ではなく、「どうやって」するべきか…が重要ということになる。生産工程の改善など「プロセスの再設計」の時期でもある。確かに「成熟期」になるともはや「何を」といっても、やれることは限定されているが、「いかにして」目の前の課題をこなしていくかというプロセスの改善はいくらでも図ることができる。シンプルなモデルだが、シンプルであるがゆえに、自分自身の「ライフサイクル」を分析して「次の一手」を考えるヒントをくれる本である。タイトルはいかめしいが、内容はきわめて読みやすく構成されている。ただし新刊書店ではなかなか入手しにくい本なのでセブンネットかamazonで購入するか、ブックオフなどの新古書店を探索するほうが購入しやすいだろう。